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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
神父は搬送先の病院で死亡が確認された。
鬼塚はすぐ様、少年救護院に移送された。
警察沙汰にならなかったのは、鬼塚の将来を慮ったからではない。
ひとえに神父の悪しき犯罪が表に出ることを教会側が恐れたからだ。

鬼塚は、救護院の職員に必死で何度も小春の容体を尋ねた。
箝口令が引かれたために、誰も教えてはくれなかったが、唯一、年若の職員が内緒で鬼塚に知らせてくれた。
事件のあらましを聴いた職員が、鬼塚の境遇を不憫がったからだ。

「妹さんは病院に入院しているが、少しずつ元気になってきたよ」
鬼塚は心底ほっとした。
…血塗れだった小春…。
あのまま息絶えてしまったのではないかと、それだけを危惧していたのだ。

…小春に乱暴をしたあのゲス野郎は俺が殺した。
だから小春はもう誰にも襲われる心配はないのだ。
鬼塚は安堵した。
自分が神父を殺したことを微塵も後悔していなかった。
…あんな奴、殺されて当然だ。
小さな小春にあんな酷いことを…!もっともっと刺してやれば良かった…!

…神父に殴打された鬼塚の片目は、治療の甲斐なく失明してしまった。
だが、そんなことはどうでも良かった。
小春が元気になってくれさえすれば…また再会し、一緒に暮らせさえすれば…片目だろうと何だろうと、構わなかった。

…そうして神父と教会の体面の為に、鬼塚の事件は闇に葬られた。

一ヶ月ばかり経った頃、鬼塚に小春の近況を時折伝えてくれていた若い職員が、言いづらそうに伝えに来た。
「…妹さんは、ある富裕なご夫婦に引き取られたよ。
ご夫婦のたっての希望で養女になったんだ」


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