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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
その夫婦は敬虔なクリスチャンで、信者仲間に聴いた神父の事件の犠牲者に胸を痛めていた。
元からその神父を批判的な眼で見ていた真面目な夫婦だったのだ。
そして小春が入院している病院に、その夫婦はそっと見舞いに来た。

小春を一目見るなり、夫婦はすっかり気持ちを奪われてしまった。
小春は大変な美少女で…誰もが庇護欲をそそらずにはいられないような…可憐さと愛らしさを秘めていたからだ。
少女が神父の憐れな犠牲者だということも、クリスチャンの彼らには、救わずにはいられない使命感めいた衝動に駆られたのだ。

銀座で古くから大きな宝飾店を経営する富裕な夫婦には子どもがいなかった。
夫婦は直ぐに孤児院の責任者に、養女にしたい旨を申し出た。
孤児院は小春の処遇を持て余していたので、渡りに船とばかりにその申し出を受諾したのだ。

鬼塚は心底ほっとした。
また孤児院に戻されたら、シスターの折檻が待っているかもしれない。
自分は暫く救護院を出られないだろうし、小春を守ることはできない。
孤児院の子どもは、いずれ引き取り手が現れたら院を出なくてはならない。
養子や養女に引き取られることは、僥倖と言えるような滅多にないことだった。
大抵は大店の住み込みの働き手…子守や下足番など…として引き取られるのだ。
もちろん学校になど行かせては貰えないし、横暴な雇い主や職場仲間に虐められたりと、居心地の良い職場からは程遠いところが殆どだ。

傷ついた小春が富裕な夫婦に…しかも事情も分かった上で、慈愛の気持ちで引き取って貰え、養女に迎えられたことなど奇跡に近い出来事だった。
…良かった…。本当に…。

鬼塚は安堵しながら職員に尋ねた。
「…あの…小春に手紙を渡して貰ってもいいですか?あと、小春の新しい住所を教えて貰いたいんですけど…。
手紙を書いたり…ここを出られたら会いに行きたいんです」

職員は、痛ましいような表情をした。
「…それがね。…妹さんは、あの事件の記憶をすっかり失くしてしまっているんだよ。…というか、孤児院に預けられてからの記憶が一切失くなっているらしい。
記憶障害という症状だそうだ。…身体と心が余りに辛い記憶を無意識に消してしまおうとしたのかもしれないね。
…それから…」

職員は鬼塚の眼を見て告げた。
「…君の記憶もないそうだ。にいちゃんは洪水で死にました…と言っているそうだよ」



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