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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
鬼塚は大紋の方を向き直り、真っ直ぐな眼差しで語りかけた。
「…俺は彼女に刺されたことを恨んではいない。
復讐されて当然なことを俺はした…。
だから、何とか彼女が子どもたちのところに早く帰れるように、情状酌量を訴えてくれないか。
そのために俺が法廷で証言してもいい」

大紋は眼を見張り…嬉しそうに笑った。
「そう言ってくれると、とても助かるよ。
彼女ももはや復讐の気持ちは失せたようだ。
今はひたすら子どもたちに会いたがっているただの母親だ。
…しかし、君は変わったな。とても人間味のある…優しい人間になった」
「…戦争は人を変える…。
俺はどん底まで落ちて…ようやく目が覚めたんだ…。
遅まきながら…だが…」
独り言のように呟く鬼塚に、大紋は意外そうに眉を上げ、
「…君…もしかして…」

言いかけた時、ドアが開き柔らかな美しい声が響いた。
「にいちゃん、ただいま。回診どうだった?
虎屋で最中を買ってきたの。美味しいのよ」

小春は鬼塚に無邪気に喋りかけ、傍にいる大紋に気づき慌てて頭を下げた。
「お客様でしたのね。失礼いたしました。
今、お茶を…」
大紋は立ち上がり、和かに笑った。
「いや、それには及びません。
私は鬼塚くんの古くからの友人で、弁護士の大紋春馬と申します」
小春は淑やかに頭を下げた。
「岩倉笙子と申します。兄がいつもお世話になっております」
誇らしげに自己紹介する小春を目を細めて見つめ、しみじみと呟いた。
「…そうですか…。貴女が鬼塚くんの妹さんですか…」

そして、鬼塚に悪戯っ子のように囁いた。
「…会いたいひとに会えて良かったな。
私の餞の言葉が良かったんだろうね。
…それにしても頗るつきの美人の妹さんだ…!」
鬼塚は拗ねたようにそっぽを向いた。
「うるせえな、オッサン。早く帰れ」

小春が慌てて窘めた。
「にいちゃん!なんてこと言うの!申し訳ありません。大紋様…」
朗らかな大紋の笑い声がそれに続いた。




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