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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
「…あんたには迷惑のかけ通しだな…」
二人の姿が視界から消えると、鬼塚は呟いた。
岩倉の勤務先ということで、特別個室に入院させてもらっている。
様々な便宜も図ってもらっているはずだ。
…それに何より…
ここ数週間は小春は鬼塚にかかりっきりで、主婦として母としての務めも果たせていないのではないか…。
そう呟くと、岩倉は眼鏡の奥の端正な瞳に温かい微笑みを滲ませる。
「貴方がお気になさることではありません。
…それに…。
貴方のそばにいることは笙子さんにとって、必要なことなのです。
失われた子ども時代を取り戻すために…ね」
鬼塚はぽつりと独り言のように呟いた。
「…俺に関する記憶が完全に戻ったことは、小春にとって良かったのだろうか…」
岩倉は車椅子の鬼塚の向かいのベンチに腰掛けた。
「なぜですか?」
鬼塚は苦しげに眉を寄せた。
「…小春は、俺と一緒に暮らしたがっているが、それは俺に対して罪悪感を感じているからではないだろうか…。
俺が小春を庇い怪我をしたこと…神父を殺したこと…そして何より俺を忘れていたことに、罪滅ぼしをしたくて…。
そうだとしたら、俺は小春にそんな思いはさせたくないんだ。小春には今まで通り伸び伸びと人生を楽しんで欲しいんだ」
岩倉は意外そうに鬼塚を見遣り、穏やかに微笑った。
「…貴方はどこまでも笙子さんを思いやられるのですね。
笙子さんへの愛の深さに、私は少々恐れをなしていますよ」
「岩倉さん…俺は…」
誤解されるのは不本意で、言葉を繋げようとすると、ふんわり優しい眼差しが頷く。
「分かっていますよ。貴方の愛は混じりっけなしだ。
…そして笙子さんにとって、貴方は唯一無二の存在なのですよ。欠けていたピースが見つかり、心から安堵している。失われた時間を取り戻したいと思っている。
…何より貴方を愛している。
罪悪感ではないのです。溜め込まれていた愛が溢れ出しているだけです。
…私は羨ましい。
あんな笙子さんを見たのは初めてです」
最後は本音を混じらせた。
そして、笑みを消した真剣な眼差しで語り始めた。
「…貴方と笙子さんは運命の相手なのですよ。
恋愛だけが運命ではないと私は思っています。
…私は笙子さんに出逢った時から、このひとは運命の相手をずっと探されているような気がしていました。
…それはやはり当たっていた。
貴方は、笙子さんの運命のひとだ」
二人の姿が視界から消えると、鬼塚は呟いた。
岩倉の勤務先ということで、特別個室に入院させてもらっている。
様々な便宜も図ってもらっているはずだ。
…それに何より…
ここ数週間は小春は鬼塚にかかりっきりで、主婦として母としての務めも果たせていないのではないか…。
そう呟くと、岩倉は眼鏡の奥の端正な瞳に温かい微笑みを滲ませる。
「貴方がお気になさることではありません。
…それに…。
貴方のそばにいることは笙子さんにとって、必要なことなのです。
失われた子ども時代を取り戻すために…ね」
鬼塚はぽつりと独り言のように呟いた。
「…俺に関する記憶が完全に戻ったことは、小春にとって良かったのだろうか…」
岩倉は車椅子の鬼塚の向かいのベンチに腰掛けた。
「なぜですか?」
鬼塚は苦しげに眉を寄せた。
「…小春は、俺と一緒に暮らしたがっているが、それは俺に対して罪悪感を感じているからではないだろうか…。
俺が小春を庇い怪我をしたこと…神父を殺したこと…そして何より俺を忘れていたことに、罪滅ぼしをしたくて…。
そうだとしたら、俺は小春にそんな思いはさせたくないんだ。小春には今まで通り伸び伸びと人生を楽しんで欲しいんだ」
岩倉は意外そうに鬼塚を見遣り、穏やかに微笑った。
「…貴方はどこまでも笙子さんを思いやられるのですね。
笙子さんへの愛の深さに、私は少々恐れをなしていますよ」
「岩倉さん…俺は…」
誤解されるのは不本意で、言葉を繋げようとすると、ふんわり優しい眼差しが頷く。
「分かっていますよ。貴方の愛は混じりっけなしだ。
…そして笙子さんにとって、貴方は唯一無二の存在なのですよ。欠けていたピースが見つかり、心から安堵している。失われた時間を取り戻したいと思っている。
…何より貴方を愛している。
罪悪感ではないのです。溜め込まれていた愛が溢れ出しているだけです。
…私は羨ましい。
あんな笙子さんを見たのは初めてです」
最後は本音を混じらせた。
そして、笑みを消した真剣な眼差しで語り始めた。
「…貴方と笙子さんは運命の相手なのですよ。
恋愛だけが運命ではないと私は思っています。
…私は笙子さんに出逢った時から、このひとは運命の相手をずっと探されているような気がしていました。
…それはやはり当たっていた。
貴方は、笙子さんの運命のひとだ」