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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
「…運命のひと…」
その言葉を反芻する。

…生き延びて、妹と再会を果たせ。
お前の真の人生は、そこから始まるのだ…。

男の言葉が蘇る。
…大佐…!

「…けれど私も負けたわけではありませんよ。
笙子さんを一番理解して、身も心も愛していて、生涯守ることができるのは私だけだ。
その自負はあります」
岩倉の静かだが力強い言葉に、鬼塚はふっと安堵の笑みを漏らした。

「…あんたが小春の旦那で良かった。俺は心からそう思っている。
小春を生涯、よろしく頼む」
頭を下げる鬼塚に、岩倉の温かい言葉が降り注ぐ。
「お約束いたします。
…それから…貴方の心の重荷が少し軽くなられたようで、良かったです」
貌を上げて、薄く微笑む。
「…そうだな。生き続けている限り、なくなることはない重荷だが、俺はこの重荷を背負ったまま生きてゆく。
…小春に恥ずかしくないように、前を向いて生きてゆく」

その貌を岩倉は眩しげに見つめた。
「…貴方はやはり笙子さんのお兄さんだ…」

鬼塚は夢のように咲き誇る満開の桜の花を見上げながら、自分に語りかけるように告げた。
「退院したら、友人と仕事を始めようと思う。
あんたの家には行かない。
…俺は一人で、一から人生を生き直す」

…この満開の桜を…舞い落ちる美しい桜の花弁を…自分は生涯忘れないだろうと、鬼塚は密かに思った。

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