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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
一週間もすると、鬼塚は杖をついて歩けるようになった。
小春は大層喜んだ。
病院内の浴室にも、介助なしで行けるようになった。
その日の午後、鬼塚は風呂を使い病室に続く廊下をゆっくりと歩いていた。
…そろそろ小春に今後のことを切り出さなくては…。
小春に泣かれるのは辛いな…と、少し気が重い。
…と、鬼塚の病室の入り口に、小さな菫の花束が置かれているのを見つけた。
拾い上げ、名前がないか確認する。
…誰か見舞いに来たのかな…。
首を傾げながら、中に入る。
中では小春がタオルを持って待ち構えていた。
「にいちゃん、まだ髪が濡れている。風邪を引くわ」
嬉しげに世話を焼く小春が愛おしい。
「大丈夫だ。馬鹿は風邪を引かないんだ」
「嘘!にいちゃんは馬鹿じゃないわ」
目を合わせ、くすくすと笑い合う。
小春が鬼塚が手にしている菫の花束に眼を転じる。
「それは…?」
手にした菫を見ながら首をかしげる。
「…入り口に置いてあった。誰か見舞いに来たのかな…」
小春が息を呑み、ぎこちなく眼を逸らす。
その様子が不自然で、鬼塚は声をかける。
「小春?どうした?」
小春は鬼塚に背を向け、少し硬い声で尋ねた。
「…にいちゃん。…やっぱり私たちの家には来ないのね…」
岩倉に聞いたのだろう。
鬼塚は一呼吸置き、頷いた。
「ああ。…俺は新しい人生を一人で一から始める。
お前の気持ちは本当に嬉しかったよ。ありがとう。
…小春、一緒に暮らさなくても俺はお前のことを一番に思っている。
お前が一番大切だ。お前がずっと幸せに暮らしてくれることが何よりの願いだ。
お前に何があったら、俺はすぐに駆けつける。約束する。
…だから、お前もお前の家族と生活を大切に生きてくれ」
小春は俯いたまま答えなかった。
やがて辛抱強く待つ鬼塚の耳に、か細く震える声が届いた。
「…本当に…?」
「うん?」
「本当に…私が一番大切?」
「ああ、そうだ。お前が一番大切だ」
「…ほかの誰よりも?」
「ああ、ほかの誰よりも…お前が大切だ、小春」
鬼塚は背中から優しく小春を抱きしめた。
恋人に囁くように告げる。
「俺はお前が一番大切だ。それは生涯変わらない」
小春は振り返り、声を詰まらせながら鬼塚にしがみついた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…にいちゃん!…私…私…嘘を吐いていたの…!」
小春は大層喜んだ。
病院内の浴室にも、介助なしで行けるようになった。
その日の午後、鬼塚は風呂を使い病室に続く廊下をゆっくりと歩いていた。
…そろそろ小春に今後のことを切り出さなくては…。
小春に泣かれるのは辛いな…と、少し気が重い。
…と、鬼塚の病室の入り口に、小さな菫の花束が置かれているのを見つけた。
拾い上げ、名前がないか確認する。
…誰か見舞いに来たのかな…。
首を傾げながら、中に入る。
中では小春がタオルを持って待ち構えていた。
「にいちゃん、まだ髪が濡れている。風邪を引くわ」
嬉しげに世話を焼く小春が愛おしい。
「大丈夫だ。馬鹿は風邪を引かないんだ」
「嘘!にいちゃんは馬鹿じゃないわ」
目を合わせ、くすくすと笑い合う。
小春が鬼塚が手にしている菫の花束に眼を転じる。
「それは…?」
手にした菫を見ながら首をかしげる。
「…入り口に置いてあった。誰か見舞いに来たのかな…」
小春が息を呑み、ぎこちなく眼を逸らす。
その様子が不自然で、鬼塚は声をかける。
「小春?どうした?」
小春は鬼塚に背を向け、少し硬い声で尋ねた。
「…にいちゃん。…やっぱり私たちの家には来ないのね…」
岩倉に聞いたのだろう。
鬼塚は一呼吸置き、頷いた。
「ああ。…俺は新しい人生を一人で一から始める。
お前の気持ちは本当に嬉しかったよ。ありがとう。
…小春、一緒に暮らさなくても俺はお前のことを一番に思っている。
お前が一番大切だ。お前がずっと幸せに暮らしてくれることが何よりの願いだ。
お前に何があったら、俺はすぐに駆けつける。約束する。
…だから、お前もお前の家族と生活を大切に生きてくれ」
小春は俯いたまま答えなかった。
やがて辛抱強く待つ鬼塚の耳に、か細く震える声が届いた。
「…本当に…?」
「うん?」
「本当に…私が一番大切?」
「ああ、そうだ。お前が一番大切だ」
「…ほかの誰よりも?」
「ああ、ほかの誰よりも…お前が大切だ、小春」
鬼塚は背中から優しく小春を抱きしめた。
恋人に囁くように告げる。
「俺はお前が一番大切だ。それは生涯変わらない」
小春は振り返り、声を詰まらせながら鬼塚にしがみついた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…にいちゃん!…私…私…嘘を吐いていたの…!」