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いつかの春に君と
第4章 君が桜のとき
突然の言葉に鬼塚は戸惑う。
「小春?どうした?…何を謝るんだ…?」
小春は鬼塚の着物の胸元に貌を埋めながら、小さな声で懺悔するように語り始めた。
「…私…にいちゃんに嘘を吐いていたの…。
本当は…美鈴さんはずっとにいちゃんの看病をしたがって、毎日いらしていたの。
…でも…私がにいちゃんのそばを離れたくなくて…美鈴さんに渡したくなくて…にいちゃんの看病は身内でなくてはだめだから…て、嘘を吐いてお帰りいただいたの…。
だから…美鈴さんが自分から身を引いたというのは、嘘なの…。
私が…私が近づけないように…追い返したようなものなの…」
「…小春…」

小春の白く艶やかな頬に透明な涙が伝い始める。
「…ごめんなさい…にいちゃん…」
鬼塚は、その涙を指先で拭ってやりながら優しく微笑んだ。
「…泣くな、小春」
小春は鬼塚を見上げ、それから手の内の菫の花を見つめた。
「…このお花、きっと美鈴さんだわ…。
今、ここまでこられたのよ」

菫の花の薫りが、懐かしいひとの面影を思い起こさせる。
…白い横顔と、目尻の泣きぼくろ…。

小春は自分から鬼塚の胸を押しやった。
「…きっとまだ近くにいらっしゃるわ。
にいちゃん…。美鈴さんを探しに行って」
「…小春…」
睫毛の涙を払うと、小春は泣き笑いの表情で…しかしきっぱりとした口調で言った。
「…美鈴さんに会ってきて…」

…そして、わざと悪戯めいた眼差しで笑った。
「…でも、私がにいちゃんの一番よね…?」
鬼塚は小春をそっと抱き寄せ、その白く清らかな額に慈しみ深く唇を付けた。
「…そうだよ。小春…。お前が一番好きだ…」
小春は、幼い頃と少しも変わらぬ澄んだ美しい瞳を煌めかせ、眩しげに微笑った。
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