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いつかの春に君と
第5章 いつかの春に君と
今城を無言でいざなったのは、小さな桜の樹が植わっている中庭の東屋だった。
ここなら、誰も寄り付かない。

黙ったまま東屋に立ち竦む鬼塚に気も止めず、今城は桜を見上げた。
「…桜を見るのは三年ぶりだ。
来週には満開になりそうだな。
…やはり桜は日本に限る…美しい…」
その端正な横顔には懐かしみと微かな痛みのような表情が浮かんでいた。

「あんた…。なぜスパイなんか…」
ずっと胸に蟠っていた澱のような憤りを口に出す。
…裏切られた…自分に見せていた姿はすべて偽りだったのか…。
鬼塚の言葉に、今城はゆっくりと振り向いた。
「…信じられないだろうけれど…」
そう切り出した。
「僕は、日本を敗戦に導くためにスパイになったんじゃない。
日本のダメージを少しでも少なくするためにスパイになったんだ。悪魔の兵器の存在も知っていた。
それらが投下される前に、なんとか終戦を迎えるよう画策していた。
…だが、間に合わなかった。
…最悪のシナリオを避けられなかった…。残念だったよ…」
痛ましい色を濃く滲ませる今城にかっとなり叫ぶ。
「綺麗事を言うな!そんな欺瞞は聞きたくない!
あんたは裏切り者の卑怯者だ!
戦地で戦って、地獄を見たことがあるか⁈
俺を信頼し、すべてを委ねてくれた部下を全員死なせた…俺の気持ちが分かるか⁈
まだ少年のような兵士を惨たらしく死なせた!
銃撃戦、飢え、マラリア…!
それなのに俺は生き残った!おめおめと!
この手は血だらけだ!殺戮と虐殺と…!
そうでなければ生き延びれなかった!
あんたは…!俺に生き延びろと言ったあんたは!俺を騙して!国を裏切って!安全なところに逃げて!
…なのに今もなお、戦勝国の虎の尾で、俺たちを騙すのか⁈奴隷のように扱うのか?
あんたは…そんなひとだったのか⁈」

叫ぶ鬼塚の身体ごと、今城の腕に強く抱き込まれる。
「離せ!離せってば!」
もがく鬼塚を暖かい腕は離そうとはしなかった。
優しみさえ感じる今城の声が、鼓膜に届く。
…懐かしい…懐かしい声だ。

「…僕を憎んでくれていい。…理解してくれなくていい。もちろん赦して貰おうとも思ってはいない。
…けれど、これだけは信じてくれ。
僕は、日本を愛していた。今も愛している。
この国がどん底から立ち直る仕事をしたくて、GHQ に志願した。僕は日本を復活させるために、命を賭ける。
約束する。信じてくれ」

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