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いつかの春に君と
第5章 いつかの春に君と
青銅の門扉の外に出ると、少し離れた場所に美鈴はいた。
「美鈴…」
声をかけると、びくりと驚いたように振り返った。
品の良い鶯色の紬の着物に羽織を着た美鈴は、とても緊張に満ちた表情をしていた。
鬼塚が近づくと、強張ったように笑い…俯いた。
「うち、やっぱり帰るわ…。こんなご立派なお屋敷に招いてもろても…うち、何を喋ったらええか分からんし…。みなさん、頭のええ方ばかりやし…。
うちが阿呆なの知れたら…あんたが恥を掻くもん…」
鬼塚はふっと笑い、美鈴の肩に手を置いた。
「…美鈴、俺を見ろ」
おずおずと鬼塚を見上げた美鈴の小さな貌を両手で包み込む。
「お前は馬鹿じゃない。小さな頃から自分の力だけで生きてきた立派な人間だ。自分を卑下するのはやめろ。
…俺は、飾り気のない一途なお前が好きなんだ」
「…あんた…」
美鈴の涙ぼくろが濡れる前に、懐から天鵞絨の布袋を取り出す。
そして真珠と銀細工でできた簪を手にすると、美鈴の艶やかな黒髪に優しく挿してやる。
「…良く似合う…。綺麗だ」
「…徹さん…!」
透明な涙に濡れ始めた涙ぼくろを指でなぞる。
そっと唇を合わせ、囁く。
「…行こう。小春もお前が来るのを楽しみにしている」
美鈴は涙を堪えながら、嬉しそうに頷いた。
美鈴の手を引き前を向いたまま、わざと素っ気なく告げる。
「…そろそろ、新しい家を探そうと思っている。
浅草の近くがいい。…部屋は…二つ以上欲しい。
…一緒に探してくれるか…?」
美鈴の手がかじかんだように震え…そのまま子どものように鬼塚の背中にしがみつき、しゃくり上げた。
「…あんた…」
鬼塚は門扉からみえる桜の樹を見上げながら、優しく囁いた。
「…一緒になろう。美鈴…」
「美鈴…」
声をかけると、びくりと驚いたように振り返った。
品の良い鶯色の紬の着物に羽織を着た美鈴は、とても緊張に満ちた表情をしていた。
鬼塚が近づくと、強張ったように笑い…俯いた。
「うち、やっぱり帰るわ…。こんなご立派なお屋敷に招いてもろても…うち、何を喋ったらええか分からんし…。みなさん、頭のええ方ばかりやし…。
うちが阿呆なの知れたら…あんたが恥を掻くもん…」
鬼塚はふっと笑い、美鈴の肩に手を置いた。
「…美鈴、俺を見ろ」
おずおずと鬼塚を見上げた美鈴の小さな貌を両手で包み込む。
「お前は馬鹿じゃない。小さな頃から自分の力だけで生きてきた立派な人間だ。自分を卑下するのはやめろ。
…俺は、飾り気のない一途なお前が好きなんだ」
「…あんた…」
美鈴の涙ぼくろが濡れる前に、懐から天鵞絨の布袋を取り出す。
そして真珠と銀細工でできた簪を手にすると、美鈴の艶やかな黒髪に優しく挿してやる。
「…良く似合う…。綺麗だ」
「…徹さん…!」
透明な涙に濡れ始めた涙ぼくろを指でなぞる。
そっと唇を合わせ、囁く。
「…行こう。小春もお前が来るのを楽しみにしている」
美鈴は涙を堪えながら、嬉しそうに頷いた。
美鈴の手を引き前を向いたまま、わざと素っ気なく告げる。
「…そろそろ、新しい家を探そうと思っている。
浅草の近くがいい。…部屋は…二つ以上欲しい。
…一緒に探してくれるか…?」
美鈴の手がかじかんだように震え…そのまま子どものように鬼塚の背中にしがみつき、しゃくり上げた。
「…あんた…」
鬼塚は門扉からみえる桜の樹を見上げながら、優しく囁いた。
「…一緒になろう。美鈴…」