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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
…その写真を見つけたのはただの偶然だった。
鬼塚が男に引き取られ、二度目の夏が来た。
鬼塚は十四歳になっていた。

その日、男は地方に出張し数日留守をしていた。
家庭教師の隊員も急用が出来て来られなかった。
家政婦の老婆は夏風邪を引き、鬼塚に伝染すといけないからと早々に帰宅していた。

…長い長い夏の昼下がりだった。
鬼塚は自習の鍛錬も学習もすべて終え、退屈していた。

出かけるという選択肢はなかった。
一人での外出は禁じられていたからだ。
男がいないのだからバレはしないのだが、鬼塚は男との約束を律儀に守っていた。

…男の書斎に入ったのは、単なる好奇心からだった。
書斎には鍵はかかっていなかった。
入室を禁じられたこともなかった。

…入ってはいけないとは言われてないから、いいだろう…。
鬼塚はそっと書斎に忍び込んだ。
薄暗いひんやりした部屋には、男の吸う外国煙草と火薬の匂いが微かに漂っていた。

…入ったものの、特に子どもの好奇心を満たすものは何もなかった。
整然と整えられた机の上には紙一枚残されてはいなかったのだ。

鬼塚は落胆のため息を吐いた。
もう部屋を出ようとして、踵を返そうとした時…。
書斎机の一番下の引き出しが僅かに開いているのに気づいた。

…珍しいな…。
男は異常なほど几帳面で潔癖だ。
引き出しを僅かでも開けて出かけるなんて、あり得ないことだった。

鬼塚は引き出しに手を掛けた。
…閉めようとしたその時、引き出しの僅かな隙間からその写真が目に入って来たのだ。

鬼塚はどきどきと高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、ゆっくりと引き出しを開いた。

…写真…。大佐の写真なんて初めて見る…。
見てはいけないと思いつつ、逸る好奇心には勝てなかった。

鬼塚はその写真を手に取った。

…まだ若い…軍服姿の若者の男の姿があった。
今のように猛禽類のような鋭い眼差しで、人を寄せ付けないような冷たい容貌ではない。
写真の男は、明るく溌剌とした陽性な人柄が偲ばれるような貌をして笑っていた。
鬼塚は目を見張った。

…そして、隣に映る若い青年に眼が釘付けになる。
男に肩を抱き寄せられ微笑む若い青年…。
白い軍服は海軍士官のそれだ。
驚くほどに端正に…優美に整った貌立ちの美青年だった。

…まるで…恋人同士みたいだ…。
二人の間に漂う甘い雰囲気は、写真からも察せられたのだ。


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