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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
鬼塚は、その青年の貌を穴が開くほどに見つめた。
…今まで見たこともないほどに美しく…どこか艶めいた青年だ。
青年の肩に置かれた男の手は強く…優しく青年を抱き寄せていた。
不意に嫉妬めいた感情が湧き上がり、鬼塚自身が狼狽する。

…親友…なのかな…。
男の軍服が憲兵隊のそれではないことも気になった。
…この軍服は…航空隊のじゃないかな…。
時折、この家を訪れる男の知人で航空隊の将校がいたので記憶がある。
何気なく写真の裏を返した。

男の筆跡で記された一文が眼に飛び込んできた。

…和葉…我、御身だけを愛す…。

…和葉…。
この青年の名前だろうか…。
…我、御身だけを愛す…。
…君だけを愛すると言う意味だ。
大佐がこの青年を愛していたと言う意味だろうか…。
そんな馬鹿な…。
この青年は、男じゃないか。

混乱する鬼塚の耳に、門扉が開く音が聞こえた。
…大佐が帰ってきた!

鬼塚は急いで写真を元の引き出しに仕舞い込み、素早く書斎を出た。

階下に降りると、男が玄関に入って来たところだった。
息せき切って現れた鬼塚を見て、男は珍しくふっと笑った。
「どうした?誰もいないのか?」
「…はい。ヤエさんは風邪を引いて早退しました」
男は、その猛禽類のように鋭い眼を細めた。
「寂しかったのか?」
…そんな冗談を言うような男ではない。
鬼塚は反射的に首を振る。
「…いいえ」
男は可笑しそうに笑った。

黒革の長ブーツのまま、家の中に上がりながらそっけなく告げた。
「…出張が早く終わったので直接帰宅した。
…お前がどうしているか…少し気になってな」
そんな言葉を掛けられたことのない鬼塚は戸惑い黙り込んだ。

「着替えて来る。珈琲を淹れてくれ」
男が家に居る時に珈琲を淹れるのは、鬼塚の役目だった。
国粋主義者の男は、嗜好品はなぜだか外国製品を好んだ。
「…お前が淹れる珈琲は美味い」
滅多に褒めない男が唯一褒めてくれたのだ。

「はい!」
力強く返事をすると、通りすがりに男は鬼塚の頭に手を遣り、くしゃりと髪を撫でた。
…髪を撫でられたことは初めてだ。
鬼塚の身体が一瞬、強張った。

姿勢の良いすらりと頑強な背中を見せながら、男は二階へと上がっていった。

その後ろ姿を見送りながら、男に撫でられた髪が仄かな温度を含んでいるのを、鬼塚は感じていた。



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