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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
男は鬼塚を見下ろした。
「お前は…会いたいひとはいるか?」
鬼塚の脳裏に妹の面影が浮かんだ。
…もう二年も会ってはいない。
押し黙る鬼塚の胸中を察したかのように、尋ねる。
「妹か?」
「…はい」

男は時折、小春の近況を知らせてくれる。
昨年はどうやって入手したのか分からないが、妹の写真を鬼塚に渡してくれた。

小春は裕福な子女が通う名門女学校の中等部の制服を着て笑っていた。
鬼塚は息が止まるほど驚き、しばらく無言で写真を見つめ続けた。

…高価そうなセーラー服に身を包んだ小春は、長い髪を綺麗にリボンで束ねていた。
そのリボンは写真からも華やかさが伝わるような洒落たものだった。
鬼塚が今も大事に宝物のように仕舞い込んである安物の桃色のリボンとは大違いだ。
痩せこけていた小春の貌は娘らしく健やかな丸みを帯び、その大きな瞳は幸せそうに輝いていた。
小柄だった背もすっかり伸びたようだ。
編み上げのブーツを履いたその姿は、どこから見ても富裕な良家の美しい令嬢であった。
後ろに小春を庇護するように立ち、大切そうに肩を抱くのは小春を引き取ってくれた養父母だ。
…優しそうなひとたちだ…。
…小春…綺麗だ…幸せそうだ…すごく…。
…俺のことなんか、記憶になくていい。
ずっと思い出さなくていい。
小春が幸せならそれでいい。

…良かった…本当に…良かった…。

涙が溢れて写真に零れ落ちる。
もったいなくて、慌てて拭いた。

男はそれを見ないふりをして、静かに部屋を出ていった。


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