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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
医務室では男が立会いのもと、軍医による診察が行われた。
頭も打ってはいないし、骨折も捻挫もない。
軽い擦り傷のみとの診断が下された。
その結果に誰よりも胸を撫で下ろしていたのは、男であった。
…変なの…。
いつも自分で稽古を付ける時は、俺が転ぼうが青あざ作ろうが平気なくせに…。
鬼塚は訝しんだ。
一人で帰れるという鬼塚を有無を言わさずに軍用車のメルセデスに押し込み、男はハンドルを握った。
鬼塚は男が車を運転する姿を初めて見た。
男の横顔を盗み見る。
硬質な表情にはやや疲れたような…しかし明らかな安堵の色が浮かんでいた。
「…お前が無事で良かった…」
吐息混じりの言葉…。
「…あんなの…怪我の内に入りませんよ…」
…変なの…。
本当に…。
鬼塚は膝の上に揃えた手をぎゅっと握りしめ、自分でも正体の分からぬ感情に耐えた。
頭も打ってはいないし、骨折も捻挫もない。
軽い擦り傷のみとの診断が下された。
その結果に誰よりも胸を撫で下ろしていたのは、男であった。
…変なの…。
いつも自分で稽古を付ける時は、俺が転ぼうが青あざ作ろうが平気なくせに…。
鬼塚は訝しんだ。
一人で帰れるという鬼塚を有無を言わさずに軍用車のメルセデスに押し込み、男はハンドルを握った。
鬼塚は男が車を運転する姿を初めて見た。
男の横顔を盗み見る。
硬質な表情にはやや疲れたような…しかし明らかな安堵の色が浮かんでいた。
「…お前が無事で良かった…」
吐息混じりの言葉…。
「…あんなの…怪我の内に入りませんよ…」
…変なの…。
本当に…。
鬼塚は膝の上に揃えた手をぎゅっと握りしめ、自分でも正体の分からぬ感情に耐えた。