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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
…温かい温もり…。
こんなに温かな体温に包まれたのは、久しぶりだ。
今まで男は性的な戯れが終わると、直ぐに部屋を出て行った。
添い寝をして朝まで一緒に眠ることもなかった。

…今は…。
鬼塚を抱きしめて静かに寝息を立てている。
男の裸を見たのも初めてだ。
男は今まで、服や着物を脱がずに鬼塚を抱いた。

…今日は…。
二人で素肌の温もりを感じながら愛し合った。
男の身体は四十過ぎとは思えないほどに強靭で鋼のような筋肉に覆われていた。
鬼塚も歳の割には逞しく引き締まった身体をしていると言われるが、男に抱かれるとその体格差を改めて感じさせられた。

男は終始優しく鬼塚を抱いた。
男の牡は、余りに長大で硬くそそり立ち、到底受け入れることは出来ないと思われた。
しかし男は丹念に鬼塚の後孔を解し、痛みを感じさせないようにゆっくりと挿入した。
緊張と高揚で身体を震わせる鬼塚の見えない眼の瞼に、優しくくちづけする。
「…やっとお前とひとつになれたな…」
「…大佐…」
男は鬼塚を愛おしむように抱いた。
そして、男を抱くことに物慣れてもいた。
そのことに、亡くなった恋人の影が透けて見え…鬼塚を少しだけ切なくさせた。

男の巧みな性技により、鬼塚は初めて男を後孔に受け入れたというのに、中で達することが出来た。
鬼塚が甘く掠れた声を上げ、達したのを確認すると、男は鬼塚の中で精を放った。
暗闇の中、男が低く呻くような声を漏らした。
…同時に鬼塚の体内が熱い飛沫を浴びせられる感覚に襲われた。
身体を震わせる鬼塚を男は強く抱き寄せ、甘く長いくちづけを与えたのだった。

…男の寝姿は初めて見る。
人を寄せ付けない厳しい貌は、今はとても穏やかに見えた。
常に乱れなく整えられている髪が無造作に額に落ちているのが微笑ましい。
温かな感情が、温泉の湯水のように湧き上がる。

鬼塚はそっと起き上がり、その額にくちづけようと貌を寄せた。

…男の唇が開かれた。
微かな声が漏れた。

「…かずは…愛している…」

鬼塚の睫毛が震える。
男を起こさないように、身を引く。

切ないこの胸の痛みは、何なのだろう。
…愛されてはいないと、分かっていたのに…。
…愛していないはずなのに…。

鬼塚は、再び男の胸に頭を寄せ、瞼を閉じた。

…愛してはいない…。
…決して…
この胸の痛みは、だから愛じゃない…。




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