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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
…そして四月初旬、幼年士官学校の入学を明日に控えた夕刻のことだった。
早々と軍本部から帰宅した男が、自室で荷造りをしている鬼塚に声をかけた。
「私の部屋に来てくれ」
鬼塚は訝しみながら、男の部屋を訪れた。

男の居間の壁には、衣紋掛けにかかっている一着の高級舶来スーツがあった。

男はそっけなく告げた。
「…早く着替えろ。出かけるぞ」
鬼塚は眼を見開いた。
「…これ…俺のですか?」
「ほかに誰が着るのだ?こんな小さなスーツ、私が着られるとでも?」
仏頂面で貌を背けてつっけんどんに言う。
…男の硬質な横顔には明らかな照れがあった。

「…大佐…」
「いいから早く着替えて来い。30分後には出かける」
号令をかけられるように言われ、鬼塚は慌てて居間を飛び出した。








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