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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
グランドピアノが奏でるモーツァルトを聴きながら、食事を始める。
テーブルマナーを習っておいて良かったと鬼塚は安堵した。
男は鬼塚に西洋式テーブルマナーやワインなど洋酒の種類や飲み方なども自ら教え込んでいた。
家政婦のヤエは西洋料理も得意で、自宅にいながら本格的なフランス料理を食べることも出来たのだ。

…俺は、このひとにたくさんのものを貰っていたんだな…。
鬼塚は優雅と威厳に満ちた仕草でワインを嗜む男を見ながらしみじみ思った。

ふと、眼が合う。
男が、なんだ?と言うように眉を上げた。
匂い立つような成熟した男の色気が漂う。
胸の痛みを抑えながら、礼を言う。

「大佐、今までありがとうございました。大佐のお陰で、俺は色々なものを教わりました。人生が…始まりました」
…生きる意味を教えてもらった。
光を与えてもらった。
…例え…愛してもらえなくても…。

男は苦しげにワインの杯を煽った。
「…お前に礼を言われるようなことは何もしていない。
…私は…私の方こそ…お前に…」
言いかけ、強い光を持った眼差しで見つめられる。
「…大佐…?」
問いかけた時、男は隣席にウェイターに導かれた家族連れが着席したのに気づき、鬼塚に目配りをした。

…何だろう…。
鬼塚は隣の席に視線を向けた。
思わず叫び出しそうになり、口元を押さえる。
…その弾みで、白いテーブルクロスからバターナイフが転がり落ち、大理石の床に乾いた音を立てた。

…鬼塚の真横に座った一人の令嬢が鬼塚を見た。

…小春…!
鬼塚は必死に喉元を押さえた。
…小春…その桜模様が描かれた友禅縮緬の振袖を着た眼を奪われるほどに美しい少女は、気遣わしげに鬼塚を見た。

咄嗟に小さな声で語りかけていた。
「…お騒がせして…失礼いたしました…」
令嬢は、まるで桜の花が一斉に咲き染めるかのように微笑った。
「…どういたしまして。お気になさらないで下さいね」

…優しい言葉…。
鬼塚の黒いアイパッチを見ても、不快な貌も同情的な貌もしない…優しい言葉と表情だった。
その優しい性格が滲み出るような…思いやりに満ちた言葉だった。
…小春…変わっていない…。

…だが、もちろん鬼塚に気づいてはいない。
気づく筈もない。
小春の中で、鬼塚は既に亡くなっているからだ。
小春は隻眼の鬼塚を知らない。
…恐らく、兄の面影も既に朧げなのだろう…。

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