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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
寄宿舎の部屋でいつまでもべそべそと泣き続ける郁未の前に、ナプキンに包まれた黒パンとソーセージが差し出された。
郁未は眼を見張り、見上げる。
「鬼塚くん!これ…」
鬼塚は素っ気なく答えながら、机の前に座った。
「食堂のおばさんに貰ってきた。見つからない内に食え」
そう言いながら、もうレポート用紙にペンを走らせている。
「…あ、ありがとう!」
郁未は子どものように無邪気にパンとソーセージにかぶりついた。

…はっと我に返る。
「鬼塚くんのは?」
「俺は要らない。別に一食くらい抜いたってどうってことはない」
…子どもの頃は丸一日何も食べられないこともザラだった…と何でもないように呟く。

郁未は、急いでパンとソーセージを半分に分け、サンドイッチにすると鬼塚に突き出した。
「半分こしよう!…だって…本当は…鬼塚くんは一番にゴール出来たはずなのに…僕を庇ってくれたから…遅くなっちゃったのに…」
また泣きべそをかきだした郁未を鬼塚は隻眼で見上げ、やれやれと言った風に肩を竦めた。
「いちいち泣くな。男だろ」
けれど素直にパンを受け取り、淡々と口に運んだ。

その十五にしては大人びた孤高とも言える後ろ姿を郁未は眩しげに眺めた。

…鬼塚徹…。
彼は郁未が幼年士官学校に入学して初めて出来た友達だった。

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