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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
敗戦から一年が過ぎた。
…鬼塚が硫黄島から九死に一生を得て帰国してから半年が過ぎようとしていた。
…戦地のことは…まるで悪夢の中の出来事のようだ。
今となっては現実に起こったことなのか…鬼塚ですら分からない。
…なぜなら、それを話すべく上官も部下も誰一人として生き残りはしなかったからだ。
鬼塚は終戦近い夏のある日…奇襲作戦での爆撃に巻き込まれ、瀕死の状態でアメリカ軍の捕虜となった。
将校だった鬼塚は本来なら厳しい取り調べを受けるはずだった。
だが幸か不幸か、鬼塚は己れの軍服を酷いマラリアを発症し、悪寒に震える部下に貸し与えていたのだ。
その代わり、その一兵卒の部下の軍服を着て戦場に出て捕虜となった。
生死の境を彷徨い、意識のない鬼塚は自分のあずかり知らぬところで、傷付いた一兵卒の集団へと移送されていたのだ。
野戦病院では、片脚に銃弾を受けろくに歩くこともできず…しかも隻眼の平の兵士など、アメリカの将校達は気にも留めなかった。
傷が癒えた頃に終戦を迎えた。
一介の兵士と間違われたままの鬼塚はあっさりと解放され、日本へ向かう引き揚げ船に押し込まれたのだった。
…日本へ帰れる喜びは皆無だった。
帰ったとて、彼を待っている人は誰もいない。
鬼塚が忠誠を誓った陛下は、勝利国に人間宣言をさせられてしまった。
鬼塚が信じ、命を賭けていた世界は全て崩壊してしまったのだ。
なぜ生き残ってしまったのか…。
忸怩たる思いに苛まれ、鬼塚は船内で鬱々と無為な日々を過ごした。
…鬼塚が硫黄島から九死に一生を得て帰国してから半年が過ぎようとしていた。
…戦地のことは…まるで悪夢の中の出来事のようだ。
今となっては現実に起こったことなのか…鬼塚ですら分からない。
…なぜなら、それを話すべく上官も部下も誰一人として生き残りはしなかったからだ。
鬼塚は終戦近い夏のある日…奇襲作戦での爆撃に巻き込まれ、瀕死の状態でアメリカ軍の捕虜となった。
将校だった鬼塚は本来なら厳しい取り調べを受けるはずだった。
だが幸か不幸か、鬼塚は己れの軍服を酷いマラリアを発症し、悪寒に震える部下に貸し与えていたのだ。
その代わり、その一兵卒の部下の軍服を着て戦場に出て捕虜となった。
生死の境を彷徨い、意識のない鬼塚は自分のあずかり知らぬところで、傷付いた一兵卒の集団へと移送されていたのだ。
野戦病院では、片脚に銃弾を受けろくに歩くこともできず…しかも隻眼の平の兵士など、アメリカの将校達は気にも留めなかった。
傷が癒えた頃に終戦を迎えた。
一介の兵士と間違われたままの鬼塚はあっさりと解放され、日本へ向かう引き揚げ船に押し込まれたのだった。
…日本へ帰れる喜びは皆無だった。
帰ったとて、彼を待っている人は誰もいない。
鬼塚が忠誠を誓った陛下は、勝利国に人間宣言をさせられてしまった。
鬼塚が信じ、命を賭けていた世界は全て崩壊してしまったのだ。
なぜ生き残ってしまったのか…。
忸怩たる思いに苛まれ、鬼塚は船内で鬱々と無為な日々を過ごした。