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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
郁未は鬼塚に強く惹かれ、友達になりたいと願った。
それは初めて感じる強い欲望だった。
幸い寄宿舎では同室になったので、勇気を振り絞り話しかけた。

鬼塚はちらりと郁未を見ると淡々と
「鬼塚徹だ。よろしく」
と返しただけだった。

新入生は何となく心細いので、何人かと固まって行動する。
しかし鬼塚は常に一人だった。
仲間はずれにされて一人なのでなく、自らそれを選んで一人なのだ。
周りの生徒たちも、鬼塚の黒いアイパッチに何となく恐れをなし、遠巻きにして敢えて話しかけるものは殆どいなかった。

情報通の級友が郁未に囁いた。
「…鬼塚は孤児らしいよ。あいつの身元引き受け人は憲兵隊の凄腕の上級将校なんだ。
だから隻眼でも入学出来たんだろうな」
噂話を得意げにする級友を、郁未は不快に思った。

…事実、級友の言葉は単なるやっかみと判明した。
授業や教練が始まると、鬼塚の飛び抜けた優秀さが明らかになったのだ。

語学は英語はもとより独逸語、露西亜語、仏蘭西語まで堪能だった。
数学、化学、物理、航空学はもとより歴史、地理、宗教学など…全ての教科においても教官を唸らすほどに知識があり群を抜いた秀才ぶりだったのだ。

武術、乗馬、射撃も最上級生を凌ぐほどの優秀さであった。
彼の隻眼は嘘なのではないか?との疑問が生徒たちから挙がるほどだった。

…やっぱり鬼塚くんは凄い!
郁未は益々鬼塚に憧れを抱いた。

「すごいね、鬼塚くん!鬼塚くんは何でも出来るんだね!」
白い頬を染めて鬼塚を賞賛する郁未を、鬼塚はいつものようにちらりと見遣る。
「…別に大したことじゃない」
偉ぶらないで謙遜する鬼塚は格好良いと思う。
「そんなことないよ。凄いよ!…ねえ、鬼塚くんはどこの学校に通ってたの?僕は星南の中等部だったんだけど…」
鬼塚は黒い隻眼を郁未に当て、素っ気なく言い捨てた。
「学校は通ってない」
郁未は長い睫毛を瞬かせた。
「…え?…でも…じゃあなんであんなに勉強ができるの?武術や乗馬も…」
「俺は大佐のドーベルマンだから。ドーベルマンは家で躾られるんだ」
…そう謎めいた言葉を残し、鬼塚は教室を去って行ったのだった。



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