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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
「郁未さん、お元気なの?お食事は召し上がっている?訓練は厳しいの?お友達は出来た?少し痩せたんじゃない?」
面会室に入ると母、婉子の矢継ぎ早の質問が待っていた。
…月に一度の面会日、婉子はどの父兄より早く士官学校の門の前に並ぶのだ。
女学生のようなレースをあしらった白いブラウスにスモーキーピンクのロングスカート、薄桃色のハイヒールを履いた婉子は大変若々しく見え、いつも皆の注目を集めた。
…年が離れた若く可愛らしい妻を父親は溺愛しているのだ。
婉子の郁未に対する過保護ぶりにも決して諌めたりはしなかった。

面会室に入ると婉子は、まずは郁未の貌を見て泣き出し、しばらくは話にならない。
郁未が必死で宥めると件の質問を矢継ぎ早に始めるのだ。
「大丈夫だよ、お母様。元気にやってるよ。
…そうだ。友達が出来たんだ。鬼塚くんて言うの。
すごく強くてすごく優しくて、格好いいんだ」
安心させるようにそう言うと、婉子の瞳が輝いた。
「まあ!そうなの!良かったわね。ねえ、今度のお盆休みにうちに連れていらっしゃいよ。お母様、そのお友達に会ってみたいわ」
「…う、うん…。そうだね」
…あの鬼塚が易々とうちに遊びに来てくれるとは到底思えず、郁未は返事を濁した。

婉子は散々郁未の心配をし、郁未がいないと寂しいだの、お父様は本当に呑気だのと、喋りまくり…けれど最後には
「でも、少し逞しくなられたみたい。郁未さん、頑張っていらっしゃるのね…」
しみじみと息子を褒めると禁止されている菓子の差し入れを強引に郁未に渡し、漸く帰路に着くのだ。

郁未は縮緬の風呂敷に包まれた差し入れをそっと見た。
…ノイハウスのチョコレートに虎屋の羊羹…それに料理自慢の料理長が焼いたアップルパイだ。

贅沢品と舶来品の輸入が禁止されている中、どうやって工面するのか分からないが、婉子はいつも郁未の好物を欠かさなかった。
婉子の愛情に感謝しつつ、それならば母がもっと安心するように強くならなくては…と心に誓う。
…僕が立派な軍人になったら、お母様も大叔母様から嫌味を言われないだろうし…。


…そうだ。これ、鬼塚くんと一緒に食べよう!
郁未はいそいそと鬼塚を探しに、寄宿棟に急いだ。

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