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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
鬼塚には面会に来るひとはいない。
…身元引き受け人だという憲兵隊将校の貌を、だから郁未は一度も見たことがなかった。

その代わり、週に一度の郵便配布日には、鬼塚は普段と少し様子が違った。
郵便係から手紙を受け取ると大事そうにそれを手に持ち、どこかに消えてしまうのだ。

郁未が散々探した結果、鬼塚は厩舎いることが分かった。
鬼塚は、厩舎の木の柵に背を預け手紙を読んでいた。
…その貌には郁未が見たこともない、優しい仄かな微笑みが浮かんでいた。
常に端正だが人を寄せ付けないような孤高の雰囲気は一掃され、年相応の素朴な少年の姿がそこにはあった。

…誰からの手紙を読んでいるのかな…?
郁未はいつも気になっていた。

…今日も…。
やっぱりここにいた。

鬼塚は厩舎の柵にもたれかかりながら手紙を読んでいた。
その表情は…
…まるで…恋人からの手紙を読んでいるみたいだ…。

郁未は鬼塚にそんな表情をさせる相手に、少し嫉妬する。

木立の陰からそっと見つめる郁未に気づいた鬼塚はゆっくりと貌を上げた。
特に驚く様子もなく、手紙を仕舞う。

「なんだ?」
手紙は大切そうに鬼塚の胸ポケットに仕舞われた。
…誰からの手紙なんだろう…。

「お母様からの差し入れ、一緒に食べよう…!」
郁未が、アップルパイを見せる。
鬼塚は口元に小さく笑みを浮かべた。
最近は少しずつ郁未に心を開いてくれている気がして、舞い上がりたいくらいに嬉しい。

二人は厩舎の傍らの芝生に座って、アップルパイを食べた。
…ここなら厳しい教官も、煩い上級生も来ない。

「ねえ、鬼塚くん。お盆休み、うちに遊びに来ない?」
駄目元で誘ってみる。
鬼塚は淡々と答えた。
「俺なんかが行ったら、お母様はびっくりするぞ。片目だからな」
郁未は猛然と首を振る。
「そんなことない!お母様は僕に友達が出来たことが嬉しくて堪らないんだ。すごく優しいお母様なんだ。…ちょっと過保護だけど…」
鬼塚は黙って微笑んだ。
それはなぜだかどきりとするような艶めいた表情だった。
鬼塚は立ち上がり遠くを見つめながら答えた。
「…お盆休みは…家に帰るんだ」
はっとするような熱を感じさせるような言葉だった。

「…誰かに…会うの?」
…恋しい人に会うのかとは聞けなかった。

鬼塚は何も答えなかった。
そっと胸ポケットを抑える仕草だけが、郁未の眼に映った。
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