この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
…夜半からは、嵐になった。
激しい風が、がたがたと硝子戸を打ち鳴らす。
鬼塚はまんじりともせずに、男の帰りを待っていた。
…大佐…遅いな…。
引き取られた時から男は時々、こうやって突然家を留守にし、一晩中…いや、数日帰ってこないこともあった。
勉強を教えに来る男の部下に尋ねると
「…大佐は今、重要な任務に就かれているから…」
と言葉を濁した。
そして、その任務から帰宅した男は荒んだような…大層疲労の色濃い貌をしていた。
あの頃は分からなかったが、士官学校に通いだした鬼塚にはそれが何を示しているのか、薄々分かって来た。
男は憲兵隊の上級将校…。
指揮官でもある。
危険分子や反政府主義者の粛清を指示するのだ…。
「お前の保護者の大佐は凄いな。冷酷非情で容赦ない。泣く子も黙る鬼の将校て言われているらしいぜ」
学校の同級生にやや羨ましげな眼差しで囁かれた。
…あの軍服に漂う火薬と…そして血の匂い…。
…その意味するところは…分かる…。
だが、深く考えないようにしている。
鬼塚は寝返りを打ち、磨り硝子越しに見える深い闇夜を見つめる。
…考えるのは、ただ男の無事だけだ。
激しい風が、がたがたと硝子戸を打ち鳴らす。
鬼塚はまんじりともせずに、男の帰りを待っていた。
…大佐…遅いな…。
引き取られた時から男は時々、こうやって突然家を留守にし、一晩中…いや、数日帰ってこないこともあった。
勉強を教えに来る男の部下に尋ねると
「…大佐は今、重要な任務に就かれているから…」
と言葉を濁した。
そして、その任務から帰宅した男は荒んだような…大層疲労の色濃い貌をしていた。
あの頃は分からなかったが、士官学校に通いだした鬼塚にはそれが何を示しているのか、薄々分かって来た。
男は憲兵隊の上級将校…。
指揮官でもある。
危険分子や反政府主義者の粛清を指示するのだ…。
「お前の保護者の大佐は凄いな。冷酷非情で容赦ない。泣く子も黙る鬼の将校て言われているらしいぜ」
学校の同級生にやや羨ましげな眼差しで囁かれた。
…あの軍服に漂う火薬と…そして血の匂い…。
…その意味するところは…分かる…。
だが、深く考えないようにしている。
鬼塚は寝返りを打ち、磨り硝子越しに見える深い闇夜を見つめる。
…考えるのは、ただ男の無事だけだ。