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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
鬼塚は無言で歩き続ける目の前の逞しい男の背中をじっと見つめた。
黒い紋紗の夏の着物がまるで喪服のように見える。

…男の頑丈な手に握りしめられた白い百合の花束…。
武骨な男の手のひらに握られた不似合いなその美しく優雅な花に、鬼塚は訳の分からない嫉妬めいた感情を抱く。

盛りは過ぎたが、青々と緑が生い茂る根津神社の躑躅を横目に暫く歩く。
やかましいくらいに蝉が鳴き立てる。

どこからともなく、線香の香りが漂ってきた。
…そうか…お盆だものな…。
肉親がいない鬼塚には、お盆はただの夏期休暇でしかない。
郁未はわざわざ京都の本家の寺にお参りに行くのだと言っていた。
…京都のお祖母様がすごく厳しいんだ。大叔母様は口喧しいし…。行きたくないよ…。
そう口を尖らせていた郁未を思い出す。

…目の前に現れたのは歴史を感じさせる古式ゆかしい寺だ。

門前に着くと男は一度立ち止まり、鬼塚を振り返った。
男は、静謐な眼差しで告げた。

「…ここは、和葉の菩提寺だ」
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