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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
鬼塚は目を見張った。
「…え…」
…まさか、男の口からあの海軍士官の名前が出てくると思わなかったのだ。
「…篠宮和葉…。私の士官学校の同期で唯一無二の親友で…そして…」
…かけがえのない恋人だった…。
付け加えられた言葉は、やや小さかったが、はっきりと聞き取れた。
鬼塚は息を呑んだ。
男の口から恋人と告げられたことが、鬼塚を打ちのめした。
唇をぎゅっと引き結び、男を睨みつける。
「…そんな…。そんなひとのお墓に…行けません。
行きたくありません」
鬼塚は初めて男に歯向かった。
「…一人でお参りして下さい。そのひとだって、俺が行ったらきっと嫌がる…」

男に背を向ける。
…大佐は俺のことをなんだと思っているんだろう。
何とも思ってないから、こんなことが出来るんじゃないだろうか…。

…愛していないと言われた。
愛せないと言われた。
それなのに、俺を連れて行ってどうするんだ…。

俯いた鬼塚の腕を、男の温かい手が掴む。
思わずふり仰いだ鬼塚の瞳を息詰まるほど真剣な男の眼差しが捉える。

「…和葉にお前を会わせたいのだ…」

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