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いつかの春に君と
第1章 桜のもとにて君と別れ
…米兵の腕に絡みつくように抱きつき、媚びを売る派手な化粧の女たち…。
女たちは米兵に春を鬻ぎ、家族を養うのだ。
鬼畜米英と叫んだ過去などすっかり忘れ果てたように…。
清貧の思想は…謙虚の美徳はどこにいってしまったのだ。
…女たちは鼻でせせら笑うだろう。
清貧や美徳で腹が膨れるのかと…。
大人しく待っているだけでは飢え死にしてしまうのだと…。
彼女らは国家など当てにならぬことを悟ってしまったからだ。

富国強兵などもはや前時代の遺物どころか、悪しき過去の歴史なのだ。
鬼塚が信奉し、忠誠を誓った尊い国家思想は今や、墨で塗りつぶされ、教えてはならない唾棄すべきものとされている。
日本人は淡々とそれを受け入れている。
受け入れざるを得ないのだ。

戦争は何も生み出さなかった。
生み出すどころか、全てのものを奪い破壊し、人々の心と身体に見える傷痕と見えない傷痕を残して行ったのだ。

…いや、自分にはそれらを憂い、批判する資格など微塵もないのだ。
自分のような人間がこの国の敗戦の手駒のひとつとなってしまったからだ。
…鬼塚が信じていたものは、すべて紛い物だったのだ。
強く美しいと信じていたものは、すべてまやかしだったのだ。

やり切れぬ想いが胸を去来し、卓に札を無造作に置くと店を出た。

…弥生三月とは名ばかりだ。
冷たい寒気が着流しの襟元に忍び込む。
鬼塚は当て所なく、仲見世を歩く。

…と、小径を曲がった小さな神社の境内から子どもたちの諍う声が聞こえた。
鬼塚は気まぐれに足を止めた。

「返して、返して…」
弱々しい声は六つばかりの少年だ。
糊の効いた白いシャツに高価そうな紺色のセーター、紺色の半ズボン、長靴下、履いているのは黒い革靴だ。
…明らかにこの辺りの子どもではない。
その華奢な少年を取り囲んでいるのは、この辺りの長屋に住むいわゆる札付きの悪餓鬼どもだ。

「いい時計じゃねえか。舶来品だぜ。売れば銀シャリが買えるな。煙草もだ」
一端の悪党のような口調でリーダーと思しき少年が口元を歪ませる。
その手には凡そ不似合いなきらきらと輝く腕時計が翳されていた。
周りの少年が一斉に歓声を上げる。
…皆、古びた着物を着た貧しい貧民窟の子どもたちだ。

「返して…。お願い。…これ、お父様に買っていただいた時計なの…」
少年達がどっと嗤う。
「お父様ときたもんだ!」




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