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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
鬼塚の心を読んだかのように、男は苦しげな貌をした。
「…私は…まだ和葉を愛している。…恐らく生涯、忘れることはないだろう」
「…大佐…」
…分かっていた。
この男の心を捉えて離さないひとは、この冷たく黒い墓石の下に眠っている。
彼は永遠に美しい二十二歳のままで時を止めて、男の心を捉え続けるのだ…。
…狡いよ…和葉さん…。
貴方は、亡くなっても大佐の心を持っていったままなんだね…。
俺は永遠に貴方に勝てないじゃないか…。
男は鬼塚を抱き締める。
…まだ愛しているという恋人の墓の前で…。
そして、そっと囁いた。
「私は和葉を愛している。…だが、お前が大切なのだ。
この世の誰よりも…。お前が可愛い。…お前のことを案じているのだ」
…それは、本当なのだろう…。
男は嘘を吐けない。
鬼塚を大切にしてくれていることも分かる。
…密かに入手してくれた小春の写真、帝国ホテルで偶然を装い小春の姿を見せてくれた優しさ、毎週送られて来る愛情に満ちた手紙…そして…熱いくちづけ…鬼塚を求める腕の力強さ…。
全ては真実なのだ…。
…例え、言葉にしなくても…。
…だから、俺はこう伝える。
鬼塚は男を抱きかえし、胸の中から毅然と見上げた。
「…大佐…。愛しています」
男の眼が驚いたように見開かれる。
「…徹…」
冷たい墓石の下に眠る男の恋人に聞こえるように、心を込めて告げる。
「…貴方が俺を愛していなくてもいい。和葉さんを愛し続けてもいい。…俺は貴方を愛しているから。
愛し続けるから…。
…そして、もっともっと成長して貴方みたいな軍人になる。誰よりも強い軍人になる。だから、貴方は俺の憧れでいて下さい…。
ずっと…永遠に…」
鬼塚の唇が男の熱い唇に塞がれる。
「…ばちが当たりますよ…こんなところで…」
男は幽かに微笑った。
悪戯めいた微笑みだった。
「和葉なら許してくれる。…彼はそういうやつだった…」
わざと睨みつける真似をする。
「…勝手なひとだ…」
…人の気持ちも知らないで…。
鬼塚は自分を愛していると、決して言わない男を…それでも愛し続けると決めた。
…報われなくてもいい。
このどこまでも大きく…どこまでも孤独な男の背中を追い続けると決めたのだから…。
鬼塚は和葉の墓を振り返る。
…まるで鬼塚に微笑みを送るかのように、百合の花が揺れていた…。
「…私は…まだ和葉を愛している。…恐らく生涯、忘れることはないだろう」
「…大佐…」
…分かっていた。
この男の心を捉えて離さないひとは、この冷たく黒い墓石の下に眠っている。
彼は永遠に美しい二十二歳のままで時を止めて、男の心を捉え続けるのだ…。
…狡いよ…和葉さん…。
貴方は、亡くなっても大佐の心を持っていったままなんだね…。
俺は永遠に貴方に勝てないじゃないか…。
男は鬼塚を抱き締める。
…まだ愛しているという恋人の墓の前で…。
そして、そっと囁いた。
「私は和葉を愛している。…だが、お前が大切なのだ。
この世の誰よりも…。お前が可愛い。…お前のことを案じているのだ」
…それは、本当なのだろう…。
男は嘘を吐けない。
鬼塚を大切にしてくれていることも分かる。
…密かに入手してくれた小春の写真、帝国ホテルで偶然を装い小春の姿を見せてくれた優しさ、毎週送られて来る愛情に満ちた手紙…そして…熱いくちづけ…鬼塚を求める腕の力強さ…。
全ては真実なのだ…。
…例え、言葉にしなくても…。
…だから、俺はこう伝える。
鬼塚は男を抱きかえし、胸の中から毅然と見上げた。
「…大佐…。愛しています」
男の眼が驚いたように見開かれる。
「…徹…」
冷たい墓石の下に眠る男の恋人に聞こえるように、心を込めて告げる。
「…貴方が俺を愛していなくてもいい。和葉さんを愛し続けてもいい。…俺は貴方を愛しているから。
愛し続けるから…。
…そして、もっともっと成長して貴方みたいな軍人になる。誰よりも強い軍人になる。だから、貴方は俺の憧れでいて下さい…。
ずっと…永遠に…」
鬼塚の唇が男の熱い唇に塞がれる。
「…ばちが当たりますよ…こんなところで…」
男は幽かに微笑った。
悪戯めいた微笑みだった。
「和葉なら許してくれる。…彼はそういうやつだった…」
わざと睨みつける真似をする。
「…勝手なひとだ…」
…人の気持ちも知らないで…。
鬼塚は自分を愛していると、決して言わない男を…それでも愛し続けると決めた。
…報われなくてもいい。
このどこまでも大きく…どこまでも孤独な男の背中を追い続けると決めたのだから…。
鬼塚は和葉の墓を振り返る。
…まるで鬼塚に微笑みを送るかのように、百合の花が揺れていた…。