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いつかの春に君と
第2章 花の名残に君を想う
…その夜ベッドの中で、男は鬼塚をいつまでも離さなかった。
この上なく優しい愛撫をいつまでも繰り返した。
鬼塚は甘やかされるような性交の果てに、身体の内側から甘やかな蜜のような快楽が溢れてくるのを感じ、身体を震わせ身悶えた。

男は鬼塚の黒いアイパッチを外し、見えない眼に何度もくちづける。
鬼塚の傷ついた瞳にある種の偏愛めいた執着を男は持っているらしい。
「…徹…この身体を…他の男に決して許すな…」

鬼塚は薄く笑った。
「俺を抱こうなんて物好きは、貴方くらいですよ…」
男は鬼塚のまだ細く若木のようなうなじに歯を立てる。
そして、やや苛立った声で告げる。
「…お前は自分の美しさを分かっていない。
お前には危ういような湿った妙な色気があるのだ。
男ばかりの士官学校で…心配でならない…」
「大丈夫ですよ。上級生の腕をへし折って以来、怖がって誰も俺には手を出して来ませんから…」
鬼塚は男の首すじに腕を回す。
目を眇めて囁く。
「…もう一度、してください。…明日からまた当分貴方に会えない…」
「…徹…!」
…私を煽るな…と男は苦しげに言い、再び鬼塚を組み敷く。

男が少し荒々しく、鬼塚の後孔を押し開き侵入してくるのを唇を開き、深呼吸をして耐える。

「…んんっ…!…ああ…っ…ん…」
最奥を犯され、背中を仰け反らせ震える鬼塚の唇を優しく塞ぐ。
「…徹…!」
何度味わったか分からない淫靡な悦楽の沼に引き込まれるように溺れてゆきながら、男の微かな囁きを聞いた。

…愛している…。

…けれど、それは自分の願望から来た幻聴かも知れないと、白い靄の中に消えゆく意識の中で、鬼塚は思った。




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