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two roses & a lily
第8章 ハイスクール時代
キーワードは3つのグループにレベル分けされている。
レベル1が、大学、学寮、カフェテラス
レベル2が、メアリー、救命講習、医者
レベル3が、カール、僕の名前、ジョアンナ
治療を受けていることを思い出す為、今の記憶を呼び覚ます為に取っ掛かりになる言葉を、関連の薄い順にレベル分けし、退行治療の前にこのキーワードを聞いたら今の記憶を取り戻すように暗示を掛けた。
本当はカールが行った方がいいのだが、あいにく、手本を見ることなくこんな事態になってしまった。
僕より体格のいいジョンを無理矢理連れ帰るのは難しい。ましてやジョンが嫌がればマスターも大男も抵抗するだろう。
『大学』というキーワードをさりげなく会話に混ぜたのだ。
「大学?」
そう呟いて、ジョンが初めて僕と視線を合わせた。
それまでは『新しいお客さん』に興味も示さずマスターや大男と話していたのに。
「ジョン、すぐ帰るからステーキは焼く時間がないんだとさ。」
マスターが嫌みっぽく言う。
「大学、、、」
もう一度ジョンは呟いて考えていた。
「ジョン、帰ろう。」
「大学に帰る?」
「そうだ。メアリーと車で迎えにきた。」
僕は少し避けてメアリーがジョンから見えるようにして、レベル2の『メアリー』を会話に入れた。
「メアリー?」
ジョンは考えてはいるが、退行から覚めてはいない。
優しく微笑みかけるメアリーを初めて見るような表情をしていた。
急激に退行から覚める反動で暴れたりしたら大変だ。
レベル1のワードは車に乗せるまで使わない方がいいだろう。
「メアリー………
マスター、どうやら俺はステーキが食えないらしいな。
俺はこいつらについていった方がいいのか?」
「らしいな。大学があるんだろ?」
マスターがキーワードを使ってくれてジョンは頭を抱え出す。
「ほら、客が増えて帰りづらくなる前に行けよ。」
大男がジョンの脇に手を入れて立ち上がらせてくれた。
「ジョン、一緒に帰りましょ?」
メアリーの声かけに腑に落ちない感じではあったものの、『ああ。』と返事してドアに向かい出すジョン。
「ありがとうございます。」
マスターとヒューという大男にお礼を言う。
「ジョン、二度と来るなよ?」
ヒューの声かけに首を傾げて睨み付けながら、ジョンは店を出た。