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朧_ 霞む 愛しい影
第1章 この世では 叶わぬとしても。
*祐
たったいちど 兄様とひとつになったのは
兄様が数えで十五、私が十三の歳のこと。
父上、そして わたしを産んだ母さまが
相次ぎ亡くなったのも その年だった
・
病を重ね、寝ついていたあいだも
温情で 御勤めを外されては居なかった父上は
内実既に 名ばかりの役となっており。
愛するひとを 喪い
気が触れた様になってしまった母さまは
冷たい雨の日に 彷徨い歩き、
高熱にうかされたのち 厭な咳に取り憑かれ
呆気なく 父上の後を追った。
遺されたのは 次に誰が住むとも思えぬ
さびれたちいさな家しかなく。
兄様の 実の母上は、早くに逝かれていたのだが
その御実家筋は 跡取に恵まれなかったらしく
父を亡くした 優秀な兄様を養子にと
白羽の矢が立った
偶然にも その話をわたしが耳にしてしまったとは
知らない 兄様が
「今宵は戻れぬかも知れない」と 言い置いて
出掛けた夜
離れ離れになる予感と哀しさに 泣き濡れて
兄様の 衣を抱き締め、床に居ると
扉を叩く音 そして兄様の声がして。
急ぎ 迎え入れた弟の
泣いていたであろう紅い眼と
夜具に持ち込まれた 自らの衣を見つけた兄様は
わたしの背が撓むほどに強く抱き竦め
頸に あの朱い唇をつけた
抗うなど 出来ず、それどころか
背筋を駆け下りた 得体の知れぬ熱に
身体の芯を疼かされた わたしの
切ない媚びを混ぜた吐息が
それまで 踏みとどまっていた兄様の
禁を破らせたのかも知れない
たったいちど 兄様とひとつになったのは
兄様が数えで十五、私が十三の歳のこと。
父上、そして わたしを産んだ母さまが
相次ぎ亡くなったのも その年だった
・
病を重ね、寝ついていたあいだも
温情で 御勤めを外されては居なかった父上は
内実既に 名ばかりの役となっており。
愛するひとを 喪い
気が触れた様になってしまった母さまは
冷たい雨の日に 彷徨い歩き、
高熱にうかされたのち 厭な咳に取り憑かれ
呆気なく 父上の後を追った。
遺されたのは 次に誰が住むとも思えぬ
さびれたちいさな家しかなく。
兄様の 実の母上は、早くに逝かれていたのだが
その御実家筋は 跡取に恵まれなかったらしく
父を亡くした 優秀な兄様を養子にと
白羽の矢が立った
偶然にも その話をわたしが耳にしてしまったとは
知らない 兄様が
「今宵は戻れぬかも知れない」と 言い置いて
出掛けた夜
離れ離れになる予感と哀しさに 泣き濡れて
兄様の 衣を抱き締め、床に居ると
扉を叩く音 そして兄様の声がして。
急ぎ 迎え入れた弟の
泣いていたであろう紅い眼と
夜具に持ち込まれた 自らの衣を見つけた兄様は
わたしの背が撓むほどに強く抱き竦め
頸に あの朱い唇をつけた
抗うなど 出来ず、それどころか
背筋を駆け下りた 得体の知れぬ熱に
身体の芯を疼かされた わたしの
切ない媚びを混ぜた吐息が
それまで 踏みとどまっていた兄様の
禁を破らせたのかも知れない