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地獄
第40章 日菜子
 管理人室のドアに子供達が不安そうに、おどおどしていた。
 子供は二人で、お姉さんと弟のようだ。
 不安そうな弟を、お姉さんが檄を飛ばすように励ましている。


 不意にドアが開く。
 二人は少し驚く。


「おや? 来たんだね! ありがとう。約束のカメラを返すね」


 そこは漠……いや、この場合は坂本がいいだろう。
 坂本がニッコリ笑いながら、子供達を見た。


「オジサン、こんにちは!」
「こんにちは、ママはやっつけた?」


 二人がぎこちない笑い顔で、坂本を見た。
 

「田村さんの、お二人さん、ママ嫌いかい?」


 坂本が言った。
 この二人は奈緒子の子供達である。
 その子供達が、坂本を訪ねてきていた。


「好き! でも怖い」


 弟が涙目になる。
 お姉さんが「しっかりして!」と、励ましながら坂本を見た。


「ママはいいママです。でも言うこと聞かないと、いっぱい怒られる……オジサン、本当にママをやっつけたんですか?」


 お姉さんがはっきりした口調で聞いてきた。
 その姿はどこか、母の後ろ姿がたぶる。


 この子はマークしないと!


 坂本が疾しいことを考えながら、二人に言い聞かす。


「まだだよ、でも少しずつ優しくなると思うよ。今日もまた優しくなっているよ」
「本当!」


 弟が目を輝かす。


 奈緒子はよき母親……ではなかった。
 奈緒子は自分の敷いたレールに走る汽車のように、子供達を育てていた。
 つまりそのレールの通りなら機嫌はいいが少しでも気に入らないと、躾と言いながらかなり酷いことをしている。
 折檻なんかは当たり前におこなわれ、子供達にとって奈緒子は怖い存在でしかなかった。


「デジタルカメラ直したよ。ありがとうと、パパに言っといてね! ママはこれからもっと優しくなるから、オジサンが約束するね」


 坂本が気持ち悪い顔をする。
 しかし奈緒子の子供達は、満面の笑みを浮かべて「ありがとう」とお辞儀をしてエレベーターに走っていった。
 

「だから、あれだけ子を使ったんだ」


 坂本がポツリと漏らすと、管理人室に戻ってた。
 そして日菜子との時間になり、再び漠に変わる。



 
 
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