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官能書道/筆おろし
第1章 長鋒
 新しい筆をはじめて使う時は、不安な思いと、新鮮な期待でときめくものだ。
 筆がなじむまでには何度も使い続ける必要がある。
 自分の手に馴染んでくるにしたがって、筆意が自然に筆先から紙へと伝わるようになる。

 それまでの、少しまどろっこしい思いと、それをこらえて馴らしてゆく作業がいつも新鮮なのだ、と涼子は言っていた。
 筆が自分好みになる過程が刺激的なのだと。

(でも、先生の手にかかったら、どんな筆も最初っから思いのままだな)

 自分もいつか、あんな風に書いてみたい――
 澄夫はそう思った。

「教室が始まるまで、まだ時間があったわね。
 汗かいちゃったからシャワー浴びてくるわ」

「じゃあ、ここはぼくが片づけときます」

「おねがいね」

 部屋を出る涼子からズボンの前を隠すように、澄夫は身体をひねる。

 すれ違う時、長い黒髪がなびいて、ほわりとした甘酸っぱい香りが澄夫の鼻孔をくすぐった。
 うっとりするような涼子の汗の匂いだった。
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