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官能書道/筆おろし
第2章 想浴
 いや、いくら古い日本家屋とはいえ、階下の、しかも洋式にリフォームした浴室内の音が聞こえるはずがない。

 筆を片づけながら澄夫の耳が聞いているのは、幻のシャワー音。
 彼の頭の中でだけ響く水音だ。

 おろしたての筆を筆架《ひっか》(筆を吊るしておく道具。筆掛け)に掛けるときも、硯の墨を半紙でぬぐうときも、反古紙をたたんで捨てるときも、澄夫の脳裏には美しい書道の師がシャワーを浴びる姿が浮かんだまま消えない。

 もちろん、そこでの涼子は素っ裸だ。

 すべての衣類を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ艶姿となって、うっとりと湯を浴びている。
 温かい湯の噴水が、ほっそりとした首筋に、たわわな胸に、平らな腹にあたる。
 片手ですべらかな肌を撫でさする。

 澄夫の股間は先ほどから硬く勃起したままだった。

 デニムパンツの上からでもはっきりとわかるほど大きくなって、おさまる気配もない。
 一度、脳裏に浮かんだ妄想は、いくら気を逸らそうとしても、いっこうに去ろうとしなかった。
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