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官能書道/筆おろし
第1章 長鋒
 軸と穂の付け根、穂の腰と呼ばれる部分を左手でしっかりと押さえ、右手の親指と人差し指の腹をすり合わせて、穂先をやわやわと揉む。
 涼子の先細りの指先がしなやかに動く。筆穂の先端から腰にかけて、丹念にほぐしあげていった。

 今おろしているのは、一番の太筆だった。
 長鋒といって、穂先も長い。

 机に並んだ筆の脇には、墨の溜まった硯と共に、ぬるま湯を入れた筆洗、四つに折りたたんだ反古半紙、湿らせた手ぬぐいなどが置いてあった。
 ある程度、穂先が柔らかくほぐされると、筆洗のぬるま湯に浸す。
 充分に水を含ませてから、反古《ほご》半紙の上で根元から先端に向け、指先に力を込めてぎゅっと絞り上げた。

 糊を含んだ粘り気のある液が、筆の穂先からトロォッと紙の上に滴り落ちる。
 涼子のほっそりとした指で何度もしごかれ、鋒先から水気が抜けてゆく。
 そこでもう一度、ぬるま湯を含ませしごく。

 この作業を数回、繰り返した。

 穂を固めているフノリを取り除く作業である。
 まだ一度も使っていない筆は、墨に浸す前にかならずこれを行わないといけない。

 購入したばかりの筆は、痛まないように糊でカチカチに固められている。
 それを柔らかくもどす手続きだ。

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