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官能書道/筆おろし
第3章 双鉤
 二階の書作につかう和室だった。

 涼子はざっくりしたTシャツとフレアスカート姿で座布団に座り、湯上りの火照った顔に困ったような表情を浮かべた。

「まさか、澄夫くんがあんな真似をするなんて。真面目な子だと思ってたのに」

 ひと言もない。

 のぞき見がばれただけではなかった。
 師がシャワーを浴びているのを覗いていただけでも大変なことなのに、あろうことか、勃起したペニスを露出させ、しごいている現場を見つかったのだ。
 どんな言い訳もできなかった。

「まあ、わたしが無用心だったせいもあるわね」

「いえ……ぜんぶ、ぼくが悪いんです」

 うつむいたまま、絞り出すように言った。
 このまま消えてしまいたかった。

 破門だろう。
 書の道が閉ざされることはないだろうが、涼子の指導を仰ぐことはもう叶わない。
 二度と涼泉先生と会えなくなると思うと、澄夫の胸は締め付けられるようだった。

 取り返しのつかないことをしてしまった慚愧に、舌を噛み切りたい。

「……ご、ごめんなさい」

 子供じみた許しを請う言葉が洩れる。
 うなだれた澄夫の眼から、熱い滴がおちそうになる。

 膝の上で両手を握り締め、歯を食いしばってこらえる。
 自己憐憫の涙だけは見せたくはなかった。

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