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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
孝秀は,この話がどのように佐伯の妻の話につながるのかわからぬまま話を聞き続けたが,それでも多く感じるところがあった。
そういえば,スエも尋常小学校の二年までしか登校しておらず,仮名文字しか使えなかった。
今教えている夜学は男子ばかりだが,家庭の事情で昼の学校には行けず,働きながら通っている学生が大半で,中には途中で学費が続かなくなったと言ってやめていく者も多い。
これから教師として生きていくのであれば,そのような問題にどう立ち向かうのか,親によって売られてしまう娘をどう救えばよいのか,それをひたすら考えながら耳を傾けた。

「とにかく,この五助の悪さには私も苦労していたわけで,多くの父兄からも苦情がでていました。
普通は尋常小学の四年までは男女混合の級で,男と女で組を分けるのは高等科から,ということですが,このときは多くの父兄,特に女児の父兄から,男女で組を分けてくれという要望も出て,どうしようかと検討しているところだったのです。
確かに,五助が女児たちの着物をめくったり,帯を引っ張ったりといういたずらもあり,私たちは五助を厳しく叱っていましたが,あまり効果がありませんでした。
さらに,男児のなかには五助の子分になるような者もあらわれて,悪影響が大きかった。
教員のなかには,五助を出席停止にして感化院に送り込んだほうがよい,という意見も出てきていました。

ただ師範学校を出たばかりの理想主義者であった私としては,なるべく男女混合の級で,五助もそのまま一緒の級で学んでいければよよいのではないか,という考えでした。
欧米では,中学や高校,大学での男女共学が行われているということを書物で読んでおりましたから」

佐伯が語り続けるのを孝秀は聞きながら,難しいと思った。
おそらくはこの五助という者も,環境の犠牲者であろう。
母親も姉たちも,そのような汚らわしい商売をしているなかで,十歳にしてこのような悪癖を身につけたのだ。

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