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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
私は迷いながら言いました。
「君の秘密は守る。しかし,この五助をこのままにしておくわけにはいかない。五助が同じ級にいるのでは,君も安心しては登校できないだろう。だから,校長には相談する」するとこの百合子は首を横に振りました。
「絶対に嫌です。ここの校長先生は,私のお祖父さんの弟ですから,校長先生に伝わったら私の父母にも知られてしまいます。
そうしたら,もう学校には通わせてもらえないかもしれません。
今でも,少し天気が悪いだけで表に出ることを許してもらえないのです。」

私ははっとしました。
学校を休むのは彼女のわがままなのではなく,病弱な娘を心配する家族の意向によるものだったのです。
せっかく学校で少しずつ友達もできつつあった百合子が,家に閉じ込められてしまうということも避けたかったし,だからといってこのような恐ろしいことをした五助と同じ教室で学ばせることもできません。
だからといって,特別に組替えをするとか,五助を出席停止にするとかしようとすると,校長に相談することが必要になります。
倉持先生,君ならどうしますか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
孝秀はここまでの話,事件のひどさに驚いて息もできずにいた。
孝秀が通っていた小学校は農村に近い地域にあり,蛇や蛙を女子児童の机に入れるなどのいたずらをするものはいたが,このような恐ろしいことは考えたこともなかった。
「・・・わかりません。ただこの場合は,百合子の気持ちを優先したいですね」
あまりにも通り一遍のことしが思いつかなかった。

「私も同じでした。すると思いがけず,こともあろうに横にいた五助が「先生,俺がいなくなりますよ」と言い出したのです。」
「先生,これまでご面倒をおかけしました。俺は明日から学校にきません。
尋常科を卒業したら,隣町の飯屋で下足番をすることになっているので,半年ほど早いけど,明日から働くことにします。」

私は呆気にとられました。あれだけひどいことを平気でやってのける五助が,意外と賢くて話の分かる少年だったことに驚きました。
そして五助は「百合子,傷物にはなってねえから心配すんな。あとは大人になってから旦那にやってもらえ」と恐ろしいことを言って立ち去り,そのまま学校には二度と戻ってきませんでした。
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