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女鑑~おんなかがみ~
第3章 初恋
翌日、スエは気が晴れなかった。
孝秀さまに嫌われた、怒られた、軽蔑されたと思うと泣きそうだった。
穏やかで春の日差しのようだと思っていた孝秀さまが、怒りをあらわにしたことになによりも驚いた。
そして、これまで多くの男を喜ばせてきた行いを、これほどに軽蔑する男がいるのだということにも驚いた。

スエはこの日、材木に躓いて転んだり、雑巾がけの水をこぼしたりと、失敗の連続だった。なるべく孝秀さまに合わぬようにと、木材加工場の隅ばかり掃除していたが、それでも、水を汲みに行った井戸の端で、孝秀が待っていた。
思わず、踵を返して逃げようとしたスエに孝秀は、まず深く頭を下げて、
「昨日は殴ったりしてすまなかった。怪我はないだろうか」
と言った。
「お気遣いなく。私のほうこそ、失礼をいたしました」
消え入りそうな声で言ったスエに
「これを読んでほしい」と大学ノートの切れ端を四つに折りたたんだものを手渡し、再び頭を下げて去っていった。

「スエ ドノ
キノウハ ナグツテ スマナカッタ
コウトウショウギョウ ヲ デルマデ 
四ネン マッテ クダサイ
キツト アナタヲ ツマ ニ シマス
ソレマデハ ミサオ ヲ マモッテ クダサイ
キノウノ ヨウナ フシダラ ハ ケッシテ ナキヨウニ
タカヒデ拝」

スエにも読めるように片仮名で書かれていた。
それでも分かりづらいところはあったが、スエはそれをさらに細かく折りたたみ、守り袋に詰めて首から下げた。

************
職人たちが、スエは最近変わったと噂した。
職人に言い寄られても激しく拒絶するようになった。
だれかと言い交したのではないか、と言い出すものも出た。
職人同志で、此奴ではなかろうか、いや彼奴だろうと互いにからかいあっていた。


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