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女鑑~おんなかがみ~
第4章 憧れ
「自由恋愛」
操子にとってこの言葉は何よりも忌み嫌うべきものであった。
このころ、女学校の一部不良生徒たちが、大学生や中学生と恋愛事件を起こす、ということが「堕落女学生」として新聞にも取り上げられていた。
高等女学校では男女交際は厳禁であり退学処分の対象であったし、ときには従兄や兄弟と道を歩いているところを見とがめられても処分の対象となりえ、父兄が学校に出向いて本当に血縁であることを説明してようやく処分が解かれる、というのが常であった。

それでも、不真面目な生徒のなかには、男子生徒にもらった恋文を学校に持参したり、あろうことかそれに返事をしたためたりする者もいたし、当時流行の恋愛小説を教科書の隙間に挟んで教室内で回し読みをしたり、貸し借りをする者もいた。

そんななかで操子は、成績と品行の良さを教員に認められて級長を務めていた。小学生のころは人見知りでおとなしかった操子は、女学校に入り級長となってから少し自信をつけた。級長の役目は、教員とともに風紀検査を行って不良行為を取り締まることであった。同じ組の生徒たちの筆箱のなかに隠されている折り紙に見せかけた恋文や、教科書の表紙を被せた恋愛小説を、操子は躊躇なく摘発していた。

同時に操子は、兄と一緒に道を歩くようなことも自粛した。李下に冠を正さずという。美男子と噂の高い兄と歩いて誤解を受けることは、自分も兄にも悪影響だと考えるようになった。

良妻賢母となるための女学校においては、孝行、貞操、従順といった「婦道」が大切であると、校長先生はいつもおっしゃったし、学校の読書室には『婦女鑑』『女鑑』『女大学』など、これらを説いた女子向け道徳書が並んでいた。
優等生を自認する操子にとって孝行、貞操、従順の大切さは疑うべくもないものだった。
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