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女鑑~おんなかがみ~
第6章 布団
倉持が若槻に頼んだ用というのは、材木問屋の作業場で働く女中のスエを、なるべく早くに女郎として売り飛ばせ、しかも遠方あるいは外地の劣悪な私娼窟にでもやってしまえというものであった。

倉持によると、このスエという女中は、ほとんどの職人たちに肌を許し、職場の風紀を乱すのみならず、世間知らずの跡取り息子をも誑かそうとする根っからの毒婦であるから、一刻も早く遠ざけ、特に跡取り息子に近づくことは一生できないようにさせなければならないとのことであった。

倉持の提案は、この娘を連れ去ってヤクザ者の伝手で売り飛ばし、生家には勝手に出奔したと伝えればよいというものであり、これには若槻が耳を疑った。

若槻の友人や知人には極道も女衒も多くいるが、倉持ほど極悪非道の提案をする人間はほかに知らないと思った。紳士然と振舞う人間の腹黒さはこれまでにもよく見ているが、そのなかでもとりわけ酷いものであった。

若槻は、せめて体裁は合法的なものにしておかないと後で厄介だということもあって、ある女衒と連絡を取り、次にスエをこの材木問屋に連れてきた口入屋にも話をした。二人とも、スエの故郷をはじめとする村々の困窮した家を日ごろから回り、どこの家にどんな息子や娘がいるか、ということについて熟知し、互いに情報交換を行いながら人足、工員、女工、女中、子守り、芸娼妓とそれぞれに適当と思われる行き先を紹介していた。

二人とも、スエのことはよく覚えていた。特に女衒のほうは、四年前に口入屋が急死したスエの姉の代わりにスエを材木問屋に奉公させたことを知り、あの娘なら十歳くらいで売って禿から仕込んでいけば将来は大夫にでも出世できたものを、なぜ材木問屋などに、と惜しみ悔しがった。

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