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女鑑~おんなかがみ~
第6章 布団
むらさき屋の女将は、女衒が連れてきたスエを見て最初は
「今は、新しい妓を入れるつもりはなかったんだけどね」と言ったが、
若槻の紹介だと聞くと、一瞬怒った顔をしながら、それなら仕方ないね、うちで預かるよと言って女衒に事情を聞いた。

女衒によると、この娘は以前から女衒が回っていた村で目をつけていたが、十二歳ごろから急に姿を見なくなったので、別の女衒にでも先を越されたかと思っていると、こともあろうに隣町の材木問屋の女中になっていた。なんと惜しいことをしたものかと思っていたところ、材木問屋で跡取り息子を誑かしたために、暇を出されることになったと聞いて連れてきた、とのことであった。

いろいろとややこしい話で、どこまでが真実でどこまでが嘘かわからない。
娘は日焼けも手荒れもしているが、これはまさしく上玉だと思った。
農作業や子守りや材木問屋での下働きをしていても、粗末な着物を着て働いていても男を引き付ける色気がある。
この娘が跡取り息子を誑かしたのだという話を鵜呑みにするつもりはないが、何の意図もなくてもこのような娘に男は勝手に誑かされてしまうのだ。

「スエ、といったね。これからここで働いてもらうよ。しばらくはお酌をするだけでよいが、来月からはお客の相手をしてもらう。お前は早くから遊郭にくるつもりだったということだから、話はわかるだろう」
スエはとまどいながらも反論した。
「たしかに、小さな頃は大きくなったら遊郭に行くものと思ってました。
  でも、倉持さんのお坊ちゃまが、そんな商売は卑しくて
 ふしだらでだめだといって怒ったんです。
 だから、そんな商売はできません。
 孝秀さまは、優しくて賢いお方です。
 そんな商売をしたら、孝秀さまにまた怒られます」
女将はため息をついた。
「だが、お前さんは、その倉持木材からお暇をだされたんだろ。」
「でも、何のことかわからないんです。
年季まではまだあるし、これまでは職人さんや女中頭さんにも、ずっといてくれと言われていました。
一番よく働くと言って、おほめ頂いたこともあります。
それが、突然、新しい奉公先へ行けと言われて、こちらへ連れてこられました。
早く倉持木材さんに帰してください。
夏に孝秀坊ちゃまがお帰りになったとき、心配なさいます」
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