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女鑑~おんなかがみ~
第6章 布団
ヨネさんは話を続けた。
「スエちゃん、お前さんのような器量よしは、早く遊郭で奉公するのがいいよ。
そして初物はお金持ちの旦那様に高く買っていただくんだよ。
それまでは、ここらの男に誘われても肌を許しちゃだめだよ」
ヨネさんは、さっきまで一緒に転がっていた男のほうを見ながら言った。
「ここらの男で悪かったな。こんな子にそんなことを教えるなよ」
と男がぼやいたが、ヨネさんは構わずにスエを見ながら言った。
「お前さんのような器量よしは、廓に入って、お姉さんたちのいうことをちゃんときいていたらね、綿入りの真っ赤なふわふわのお布団のうえで、大金持ちのお大尽に、大事に大事に可愛がってもらいながら女になって、たくさんご祝儀をいただけて親孝行もできるんだよ」

夢のような話だ。

スエの家でも近所の家でも、布団といえば藁布団しか見たことがなかった。
古布や紙の袋に、稲藁を詰め込んだものだ。綿の入った布団を持っているのは、かなり裕福な家だけだった。
「綿が入った、真っ赤なお布団?」
「そうだよ。真っ赤で身体が沈むほど厚くて、ふわふわと雲のようなお布団のうえで優しくかわいがってもらうんだよ。
でもね、この辺の男に女にされてしまったら、この共同納屋か、お宮の社か、お寺のお堂で、汚いし、虫はいるし、和尚さんに見つかったら怒られるし、痛いばかりだし、一銭にもならない…‥まあ、私はもう年増だからどうでもいいんだけどね」
「悪かったよ。あんたから誘ったんだろが」とまた男が言った。

そのときは、そんな布団が本当にこの世にあるのかと思った。
スエは、その後なんどか、納屋やお寺の目につきにくい場所で、男女が絡んでいる姿を見たが、そんな場所でこんなことをするのは嫌だと子ども心に思った。

このヨネさんは、それから先もスエに話しかけ、いろいろと教えてくれた。男に誘われて、あまり無下に撥ねつけたくないのなら、口を使えばよいと教えてくれたのもこの人だった。

倉持木材に奉公して、孝秀坊ちゃまに会うまでは、真っ赤な綿入りの布団を夢見ていたことを、スエは今思い出した。倉持木材でも、女中や職人の布団は、ぺたんこでカチカチの古い綿が入った薄っぺらいせんべい布団で、どんなに干しても膨らむことはなかった。

このお布団のことなのか……
忘れていた幼い夢が、いま叶いそうだということにようやく気づいて、スエは抵抗をやめた。
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