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女鑑~おんなかがみ~
第6章 布団
「これは面白い。孝秀の奴、あいつは学業はできるが、阿呆だ。わかってはいたが、ここまでの大阿呆とは思わなんだ。
テイソウとジュンケツ とは笑わせてくれるな。ワッハッハッハッハ…
貞操と純潔は、女子の道徳じゃないか。
あいつは学業のし過ぎで頭がおかしくなって、妹の女学校の修身の教科書を自分のと取り違えたのかもしれんなあ。
尋常科の六つか七つの子でもそんな阿呆はあまりおらんぞ。
そうだろう、ワッハッハッハッハ。」
スエには、この話の何がどう面白いのか全く分からなかった。スエ自身は女学校どころか小学校の尋常科に三年の途中くらいまで通っただけなので、修身でもせいぜい親孝行せよと正直にせよというくらいしか習っておらず、女子の道徳と男子の道徳が別にあることも知らない。ただそれでも、孝秀さまが、教科書を妹のものと取り違えたわけではないということは、なぜか確信できた。
「これは可笑しい。ワッハッハッハ。男子たるものが、女学校の道徳を間違えて勉強するとは本当に阿呆だ。たとえて言えば、この禿げ頭のワシが、頭にかんざしをつけるようなものだな」
大旦那さまは、スエの腰に跨ったまま笑い続け、スエの腹の上で大旦那様の大きな腹が何度も揺れ、そのたびに、スエの眼から涙が溢れた。
もともと初物は売るものだと思って育ったスエにとって、自分の躰が汚されることなどはなんでもない。共同納屋のムシロや氏神様の社の虫食いだらけの床の上ではなく、綿の入った赤い布団の上で女になれるというのはありがたいことだと思う。
いっとき、孝秀さまに出会って夢を見ただけだ。
けれど、それでも孝秀さまの凛々しくて美しい面影が、このような言葉によって汚されることが悔しくて悲しくてたまらなかった。
大旦那様はでっぷりと太って孝秀さまとはそれほど似ていないと思っていたが、さすがに親子なのか声だけはそっくりで、特に笑い声は間違えるほど似ていた。
だから笑い声を聞くたびに胸の奥がうずき、涙が溢れ、それとは逆行するように、ほぐされかけていた蕾の奥は固く乾き始めた。
テイソウとジュンケツ とは笑わせてくれるな。ワッハッハッハッハ…
貞操と純潔は、女子の道徳じゃないか。
あいつは学業のし過ぎで頭がおかしくなって、妹の女学校の修身の教科書を自分のと取り違えたのかもしれんなあ。
尋常科の六つか七つの子でもそんな阿呆はあまりおらんぞ。
そうだろう、ワッハッハッハッハ。」
スエには、この話の何がどう面白いのか全く分からなかった。スエ自身は女学校どころか小学校の尋常科に三年の途中くらいまで通っただけなので、修身でもせいぜい親孝行せよと正直にせよというくらいしか習っておらず、女子の道徳と男子の道徳が別にあることも知らない。ただそれでも、孝秀さまが、教科書を妹のものと取り違えたわけではないということは、なぜか確信できた。
「これは可笑しい。ワッハッハッハ。男子たるものが、女学校の道徳を間違えて勉強するとは本当に阿呆だ。たとえて言えば、この禿げ頭のワシが、頭にかんざしをつけるようなものだな」
大旦那さまは、スエの腰に跨ったまま笑い続け、スエの腹の上で大旦那様の大きな腹が何度も揺れ、そのたびに、スエの眼から涙が溢れた。
もともと初物は売るものだと思って育ったスエにとって、自分の躰が汚されることなどはなんでもない。共同納屋のムシロや氏神様の社の虫食いだらけの床の上ではなく、綿の入った赤い布団の上で女になれるというのはありがたいことだと思う。
いっとき、孝秀さまに出会って夢を見ただけだ。
けれど、それでも孝秀さまの凛々しくて美しい面影が、このような言葉によって汚されることが悔しくて悲しくてたまらなかった。
大旦那様はでっぷりと太って孝秀さまとはそれほど似ていないと思っていたが、さすがに親子なのか声だけはそっくりで、特に笑い声は間違えるほど似ていた。
だから笑い声を聞くたびに胸の奥がうずき、涙が溢れ、それとは逆行するように、ほぐされかけていた蕾の奥は固く乾き始めた。