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女鑑~おんなかがみ~
第7章 離心
娘の足音が遠ざかると、さっそく倉持は小声で話し始めた。
「じつは若槻くん。あの女中、いまではもう女郎だが、一昨日、味見してきたんだよ。
大陸あたりに売ってくれると思っていたら、あんな日帰りできるような近くに隠したのか。
まあ、お前には考えがあるんだろうから、それでいいんだがね。
ちょっと様子を見にいったつもりが、いろいろあってね。
あの女将さんも話の分かる人だ。ひょっとして、元はお前のイロか?」
「いえ、そういうことでは……」と若槻は戸惑いながら答える。
「いや、いいんだいいんだ。ちょっと可哀想なことをしたが、客を取りたくないと泣いているのを柱に括りつけて、ワシに最初の客になってやってくれと言ってくれた。
驚いたことにねえ、生娘だったよ。
孝秀の奴が手を出していないとは思わなかった。
男のくせに、純潔とか貞操とかいってたらしい。
あれがあんなに阿呆とは、このままじゃ、大山様のご令嬢をもらっても、どの穴にいれるのか、わからんじゃないか。わっはっは・・・。」
倉持の声はだんだん大きくなってきた。

「まあ、それは置いといて、若槻君。
ああいう初物もなかなかいいもんだね。
ずっと泣いているのをなだめてさ、カチカチのところに無理やり突っ込んでやったよ。
ヒイヒイ言ってるのを押さえつけてさ。こっちも痛いほどだったがね。
あれは、女がいちどしか経験しないことだと思うとぞくぞくするね」

興奮すると声が大きくなるのはこの男の昔からの癖である。
若槻は、適当に相槌を打って話を合わせようと努めたが、胃の奥から苦いものがこみ上げてきてどうにもならなかった。

忘れかけていたはずの少年時代の記憶が断片的に蘇った。
よく似たことを喋っていた男の頭を石で殴ったことがあった。
結果的には大事にはならず、巡査と父親に大目玉を食らっただけで済んだが。
なぜあのとき、俺はそんなことをしたのだろう。

*****************
学校の遠足で花見をして、満開の桜の下で、懐かしい姉の姿を見た。
駆け寄る俺を姉は無視して追い払おうとした。
あのときにそばにいたのは、父親よりずっと年長の商人風の男。
***********

「あ、それは、なかなか、ははは、いいですね。ああ、煙草をもう一本、あ、ちょっと最近、胃の具合が…また、今度、伺います」
若槻は、なんとか吐き気をこらえた。
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