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女鑑~おんなかがみ~
第8章 平穏
夕顔は、客の間でも朋輩たちの間でも、非常に可愛がられた。
率直で気立てがよく優しい人柄が好かれた。
夕顔にとっては、初めての日の悲しみは忘れられるものではなかったが、それを別にするとこの廓での暮らしは極楽のようなものだと感じられ、ときには自分がスエという名前で生きていたことをも忘れそうになるほどだった。
夕顔は、これまでのスエだったころも、そしてこの廓でも、正しくあろうとか、人に尊敬されようとか、人に勝ちたいとか、そのようなことを思ったことが一度もなかった。
自分が気持ち良いことと、周りの者が気持ち良いこと、喜ぶことが嬉しいという、それだけが彼女の道であった。
だから、ちょっとした料理や菓子が美味しいといってははしゃぎ、赤い着物が嬉しいと言ってはしゃぎ、赤い布団が嬉しいと言ってはしゃいだ。
一度「このお布団、前に奉公していた材木問屋さんに差し上げたら喜んでくれるだろうね」と言って、周りの者を呆れさせた。
千鳥は「私など、この布団を見たとき、いよいよ自分も売り物になるのかと思って、切なくて涙が出たんだよね。これを見てそこまで喜ぶとは、これまで苦労してきたんだろうけど、材木問屋さんもこんなもの贈られたら、失礼だとお怒りになるよ」と言ったのだが、夕顔は
「でも、女中部屋と男衆部屋の布団は、どっちもカチカチで。職人さんたちはいつも重い材木を持って腰が辛いんだから、こんなふわふわの布団ならいいのに」と本気だった。
同様に、仕事のなかで身体に与えられる快楽を、すべて単純に喜んだ。
「あ、今晩も何某の旦那様がいらした。あそこをいっぱい舐めてくださるかな、楽しみ」と露骨に口に出すことには女将と千鳥が嫌悪感を示していたが、それでも自分の快楽に浸るだけではなく、口も手も使って相手が喜ぶことは何でもしたし、恥ずかしい体位を取らされても嫌がったことがなかったので、客の受けもよかった。
ただそれでも、孝秀さまを思って涙することは変わらなかった。
客を送り出したあと、ぼんやりと朱音の隣に座って、
「どうして、こんなに中が気持ちよくなることを、孝秀さまはしてくださらなかったんだろう。
結婚できるはずなんてないのに、結婚するまではだめって。
私は、たった一回で良かったのに。一回でいいから、これをして欲しかったのに」と涙ぐんだ。
率直で気立てがよく優しい人柄が好かれた。
夕顔にとっては、初めての日の悲しみは忘れられるものではなかったが、それを別にするとこの廓での暮らしは極楽のようなものだと感じられ、ときには自分がスエという名前で生きていたことをも忘れそうになるほどだった。
夕顔は、これまでのスエだったころも、そしてこの廓でも、正しくあろうとか、人に尊敬されようとか、人に勝ちたいとか、そのようなことを思ったことが一度もなかった。
自分が気持ち良いことと、周りの者が気持ち良いこと、喜ぶことが嬉しいという、それだけが彼女の道であった。
だから、ちょっとした料理や菓子が美味しいといってははしゃぎ、赤い着物が嬉しいと言ってはしゃぎ、赤い布団が嬉しいと言ってはしゃいだ。
一度「このお布団、前に奉公していた材木問屋さんに差し上げたら喜んでくれるだろうね」と言って、周りの者を呆れさせた。
千鳥は「私など、この布団を見たとき、いよいよ自分も売り物になるのかと思って、切なくて涙が出たんだよね。これを見てそこまで喜ぶとは、これまで苦労してきたんだろうけど、材木問屋さんもこんなもの贈られたら、失礼だとお怒りになるよ」と言ったのだが、夕顔は
「でも、女中部屋と男衆部屋の布団は、どっちもカチカチで。職人さんたちはいつも重い材木を持って腰が辛いんだから、こんなふわふわの布団ならいいのに」と本気だった。
同様に、仕事のなかで身体に与えられる快楽を、すべて単純に喜んだ。
「あ、今晩も何某の旦那様がいらした。あそこをいっぱい舐めてくださるかな、楽しみ」と露骨に口に出すことには女将と千鳥が嫌悪感を示していたが、それでも自分の快楽に浸るだけではなく、口も手も使って相手が喜ぶことは何でもしたし、恥ずかしい体位を取らされても嫌がったことがなかったので、客の受けもよかった。
ただそれでも、孝秀さまを思って涙することは変わらなかった。
客を送り出したあと、ぼんやりと朱音の隣に座って、
「どうして、こんなに中が気持ちよくなることを、孝秀さまはしてくださらなかったんだろう。
結婚できるはずなんてないのに、結婚するまではだめって。
私は、たった一回で良かったのに。一回でいいから、これをして欲しかったのに」と涙ぐんだ。