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女鑑~おんなかがみ~
第8章 平穏
朱音はかなり幼いころからこの廓で下働きをし、そして十五歳くらいから客を取るようになったので、男というのはすべて、これをするのが好きでたまらないものだと思っていた。
「世の中には、変わった男もいるもんだね。夕顔ちゃんほどの器量よしが、目の前にいるのに何もしないなんて。」と言いながら、いくら理由を考えても思いつかなかった。
「痛い思いをさせたら可哀想だと思ったのかな、子ができたら困ると思ったのかな、それともやり方を知らなかったのかな」
などと思いつきを言いながらなんとか夕顔を慰めようとした。
「でも、あんな堅物の学生さんだっけ、あんな人の嫁さんになったら大変だよ。
しかも、舅さんが前に来られた大旦那さんじゃ、苦労するって。
ここのほうがきっと気楽だよ」と、少しでも良いほうに考えようとする。

紅葉も、もっと若い時分に客に惚れて、他の客の相手をするのが辛くてたまらなかった時期があるので
「好きな人がいると辛いよ。目をつぶって、好きな人を思い浮かべてってみんな言うけど。あまりにも違うから余計に辛くなる」と笑った。

夕顔は
「私などは、目をつぶると、あの若旦那さまが怒る顔ばかりが浮かぶんです。こんな勤めをするお前は卑しいとか、ふしだらだとかそんな声が聞こえる気がして。
これまでに、本当にたくさんのお客のお相手をしたのに、なぜか、あの方とするところは思い浮かばないんですよね。
若旦那様も、もう、県議さんのお嬢さんをお嫁にもらわれたんでしょうね。」
と寂しそうに言った。

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