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女鑑~おんなかがみ~
第9章 虚無
夏休みが明けた新学期、操子は女学校へ登校し、大山お姉さまに兄の失礼をお詫びしようと四年生の教室を訪れたが、会ってはいただけなかった。
その後、自分の教室では級長の仕事として、恋文を持ち歩いている級友を咎めようとしたところ、
「お兄さまの駆け落ちのほうを先に咎めたらよいのでは」と聞こえよがしに言われた。
「駆け落ちではないのです。」と言い訳しようとしたが、詳しく話すと余計にややこしくなりそうだったので、黙るしかなかった。

午後に教師に申し出て、級長を辞めさせてもらった。
習い事や家事に力をいれたいのだと説明した。

もともと友達が多いほうではなかったが、これまで以上に教室では孤立したように感じられた。それでも真面目な生活態度を通し、これまで以上に学業や裁縫に励み、成績は少し上がった。担任の教師は、教員を目指したらどうかと女高師や女子専門学校の受験を勧めてくれた。
**************
兄の孝秀は、相変わらず行方が分からないままだった。
当初、父母は、孝秀が在学している高等商業の学費を支払うかどうかで言い争った。
父は払う必要はないと言い、母は払ってやりたいと主張した。
珍しく父のほうが折れ、とりあえず一期分だけは支払うことにしたが、確認したところ、すでに学校を退学していることが分かった。

夏休みの最初に帰省して、一泊もせずに立ち去った直後に、退学届けを出し、寄宿舎も引き払って姿を消していた。
このことがわかってから、母がふさぎ込むことが増えた。
母は、こんなことになるなら、あの女中さんとの結婚を許してあげればよかった、と独り言のように言った。

父はその言葉を聞くたびに、露骨に不機嫌になった。
あんなふしだらで淫乱な女中を置いておけば職場の風紀が乱れる、ましてやこの家の嫁になどなればなおさらだ」と一蹴した。

父は、孝秀は死んだものと考える、だから操子が婿養子を迎えて家を継げと言った。
母は、もう少し待っていれば孝秀が戻ってくるかもしれない、と言った。
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