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女鑑~おんなかがみ~
第9章 虚無
ある日、お母さまの叔父様が夫婦で家を訪ねてきた。操子にとっては大叔父様に当たる人で、前に亡くなった先代であるおじいさまの弟だ。
お父さまは、出かけていた。お父さまは以前から、お母さま方の親戚と顔を合わすのが好きではなさそうだった。
操子が茶を出しに出たとき、大叔父様はお母さまに対してお怒りのようすで、「淑子が惚れたはれたで、恋愛のようなことで相手を選ぶからこんなことになった」と仰っていた。
操子は驚いた。
お父さまは、恋愛での結婚や自由恋愛などというものを嫌っておられたのに、お父さまとお母さまが恋愛で結婚したとは信じられなかったのだ。
しかし、大叔父様から説明を聞くうちにようやく事情がつかめてきた。
なくなった先代であるおじい様は、一人娘しかいない家の跡継ぎとして婿養子を迎えることに決め、材木問屋で責任のある仕事をしている若者のうち、次男以下であって自分の生家を継ぐ必要のない者の誰かを迎えようと考えたのだそうだ。
しかし、誰に家を継がせるのが信用できるかということは特に考えず、条件に当てはまる若者五名のうち誰にするかは、娘に決定させたのだそうだ。
そして選択権を与えられたお母さまは、最も背が高く、当時は美丈夫であったお父さまを選んだのだと。
他方、お父さまのほうは、自分で店を経営して家屋や土地、店舗などを持ち、それらを大きくするための道具としてしか、結婚については考えていなかったのだという。
だから、お父さまとお母さまの結婚は、お父さまにとっては政略結婚であり、お母さまにとっては恋愛結婚だったのだそうだ。
「でも、おじ様たちも、とても喜んでくださったではありませんか。素晴らしい方に婿になっていただけたって、皆さん賛成してくださっていたのに、どうして…・」
とお母さまは涙声になっている。
「普通に細々と経営をしていてくれたら何も言わない。
もちろん、商売を広げたいのなら、それはそれで結構だ。
だが、この屋敷を勝手に担保にして借金をしていたんだぞ。
お前は、猛くんが商売を広げて、それで贅沢をできて喜んでいたのだろうが、
さっき確かめたら、蔵はほとんど空になっていたじゃないか。
代々伝わっている貴重な品々も、みんな二束三文で手放しやがって。
我々も分家したとはいえ、もう少し確認しておくべきだったよ」
お父さまは、出かけていた。お父さまは以前から、お母さま方の親戚と顔を合わすのが好きではなさそうだった。
操子が茶を出しに出たとき、大叔父様はお母さまに対してお怒りのようすで、「淑子が惚れたはれたで、恋愛のようなことで相手を選ぶからこんなことになった」と仰っていた。
操子は驚いた。
お父さまは、恋愛での結婚や自由恋愛などというものを嫌っておられたのに、お父さまとお母さまが恋愛で結婚したとは信じられなかったのだ。
しかし、大叔父様から説明を聞くうちにようやく事情がつかめてきた。
なくなった先代であるおじい様は、一人娘しかいない家の跡継ぎとして婿養子を迎えることに決め、材木問屋で責任のある仕事をしている若者のうち、次男以下であって自分の生家を継ぐ必要のない者の誰かを迎えようと考えたのだそうだ。
しかし、誰に家を継がせるのが信用できるかということは特に考えず、条件に当てはまる若者五名のうち誰にするかは、娘に決定させたのだそうだ。
そして選択権を与えられたお母さまは、最も背が高く、当時は美丈夫であったお父さまを選んだのだと。
他方、お父さまのほうは、自分で店を経営して家屋や土地、店舗などを持ち、それらを大きくするための道具としてしか、結婚については考えていなかったのだという。
だから、お父さまとお母さまの結婚は、お父さまにとっては政略結婚であり、お母さまにとっては恋愛結婚だったのだそうだ。
「でも、おじ様たちも、とても喜んでくださったではありませんか。素晴らしい方に婿になっていただけたって、皆さん賛成してくださっていたのに、どうして…・」
とお母さまは涙声になっている。
「普通に細々と経営をしていてくれたら何も言わない。
もちろん、商売を広げたいのなら、それはそれで結構だ。
だが、この屋敷を勝手に担保にして借金をしていたんだぞ。
お前は、猛くんが商売を広げて、それで贅沢をできて喜んでいたのだろうが、
さっき確かめたら、蔵はほとんど空になっていたじゃないか。
代々伝わっている貴重な品々も、みんな二束三文で手放しやがって。
我々も分家したとはいえ、もう少し確認しておくべきだったよ」