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女鑑~おんなかがみ~
第9章 虚無
お母さまは、幼い少女のようにきょとんとしたままで
「でも、もうすぐ孝秀も帰ってきますし、操子もお嫁に・・・・」とのんきである。

「とはいっても、二年も行方不明の孝秀くんが戻ってきても、家がなくなっていたのでは仕方がないだろう。
猛くんは、操子さんに婿養子をと考えているらしいが、借金の担保になって、人手に渡りそうな家に婿に入ろうとする奇特な人がいるはずもないだろう。
しかも、舅はあの猛くんだ。あれじゃ誰もよりつかんよ。
婿に入った家まで抵当にして冒険をするような男を選んだ兄貴やお前を責めても始まらないのはわかっているが、もし家まで失うようなことになるのなら、お前たちも仕事をすることも考えなければならんだろう。
操子などは、あと二年で女学校も卒業するのだったら、事務員か代用教員にはなれるだろう。そうしたら、結婚相手なども自分で探せばよいのだ。最近の職業婦人はそういう人が多いと聞く。」
大叔父さまは次々と現実的な方法を提案し、お母さまも相槌を打った。

家に決められた通りに生きるのではなく、職業婦人になり、結婚相手も自分で探すという生き方は、孝秀兄さまも操子に勧めていたものであったし、だから孝秀兄さまは、嫁入りしか考えていなかった操子に、女子専門学校や女子高等師範学校の入学案内や問題集を送ってきたのだろう。

高等女学校の修身でも、近年は「病気の夫に代わって職業婦人として家庭を支えた妻」や「遊興好きの夫を戒めながら、自ら経営を学び、家の商売を大きくした女性」などの伝記を学ぶことが多くなった。欧米でも戦争中には戦地にいる男に代わって、女があらゆる仕事に就いて働いたのだと聞く。

「操子さん、せっかく優等生なのだから、女高師に進んで先生になったら」
とお母さまが言う。
確かに、女高師というのはだいたい級長を勤め続けた優等生が行く学校ということに相場が決まっている。学校の推薦を受けた優等生しか入れない学校なのだ。

しかし、そのような形で自分の未来が拓けようとすることを、操子はなぜか嬉しいと思えなかった。
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