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女鑑~おんなかがみ~
第2章 妹分
「お前さん、本当にいいんだね。好いた男と一緒になるとか、そういうことが、もうできなくなるんだよ」
夕顔の脳裏に、遠くて悲しい別れが蘇る。学生服を着た美しい若者の姿が浮かぶ。四年前の正月に最後に会ったきりだ。
ちょうど、今の操子と同じ十六のころの悲しみ。
「はい。同じことです。」
今度は、少し間をおいて返事が返ってきた。
「同じって、いったい」
「家のために父が決めたところに、どこにでも嫁ぐつもりでした。父の商売に役立つようなところに嫁げればと。
しかし、兄が行方不明になり、父の商売も難しくなり、私の嫁入りのお話もどうやら先方様が断ってこられたようです。そんななかで、私の身売りで、当面の借金を返せるというお話を、父の知り合いの方が下さったようですので、お受けいたしました。」
十六でこのような受け答えができるのかと驚く。
本当にあのお嬢ちゃまなのだろうか。八年前に会ったときは、八つにしても幼すぎた少女。
「そうかい。それなら覚悟もできているんだね。女将さんから話があると思うけど、たぶん、来月の頭くらいからお客をとってもらうことになると思うよ。」
「はい、よろしくお願いいたします」
「生娘だということだから、最初は何かと辛いだろうけどね。」
「はい。辛抱いたします」
「本当に辛抱強い娘だね。初めてのときくらいは、好いた男と結ばれたかったろうに。可哀そうに」
思わず不憫に思って声をかけた夕顔に、操子はこう言い放った。
「好いた男などというふしだらなものはございません。家のために辛抱いたします」
「ふしだら」
夕顔は思わず絶句した。
夕顔の脳裏に、遠くて悲しい別れが蘇る。学生服を着た美しい若者の姿が浮かぶ。四年前の正月に最後に会ったきりだ。
ちょうど、今の操子と同じ十六のころの悲しみ。
「はい。同じことです。」
今度は、少し間をおいて返事が返ってきた。
「同じって、いったい」
「家のために父が決めたところに、どこにでも嫁ぐつもりでした。父の商売に役立つようなところに嫁げればと。
しかし、兄が行方不明になり、父の商売も難しくなり、私の嫁入りのお話もどうやら先方様が断ってこられたようです。そんななかで、私の身売りで、当面の借金を返せるというお話を、父の知り合いの方が下さったようですので、お受けいたしました。」
十六でこのような受け答えができるのかと驚く。
本当にあのお嬢ちゃまなのだろうか。八年前に会ったときは、八つにしても幼すぎた少女。
「そうかい。それなら覚悟もできているんだね。女将さんから話があると思うけど、たぶん、来月の頭くらいからお客をとってもらうことになると思うよ。」
「はい、よろしくお願いいたします」
「生娘だということだから、最初は何かと辛いだろうけどね。」
「はい。辛抱いたします」
「本当に辛抱強い娘だね。初めてのときくらいは、好いた男と結ばれたかったろうに。可哀そうに」
思わず不憫に思って声をかけた夕顔に、操子はこう言い放った。
「好いた男などというふしだらなものはございません。家のために辛抱いたします」
「ふしだら」
夕顔は思わず絶句した。