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女鑑~おんなかがみ~
第3章 初恋
夕顔は、操子の顔をまじまじと見ながら、自分のこれまでを振り返っていた。

夕顔というのはここに売られてきてからの源氏名であり、本当の名前はスエという。貧しい村のなかでも特に貧しい小作農の娘で、上には兄と姉が三人ずつ、さらに下に妹が一人いる。

このころの貧しい家で、生まれてきた娘にスエとかトメとか名付けるのは、これ以上子どもが生まれるのは困るという意味であった。

そのような中で育ち、兄たちは早くから農作業に追われ、姉たちは特に、下働きだ子守だ工場だと家を離れていったので、自分もそうなるものだと思っていた。
なかでも、遊郭に行くのが一番の親孝行だと、子ども心に思っていた。二軒先の年上の娘が昔から別嬪だといわれており、彼女が遊郭売られていったあと、そこの家は見違えるように羽振りがよくなったのだ。
スエもまた、姉たちと比べて別嬪だといわれて育っており、だから、自分も早く遊郭にいって羨まれるような親孝行をしたいものだと、ぼんやり思っていた。

学校は尋常の最初の二年は半分ほどは通ったが、だんだん遠のいていった。勉強はできるほうだったような気がするが、家事を手伝ったり下の子の守をしたりでそれどころではなかったのだ。
スエが十二歳のとき、突然、材木屋の下働きにでることとなった。次姉が、急に腸カタルで亡くなったのだ。
家の中は、急死した娘の死を悲しむより、奉公先から受け取った前借り金をどう返すかで大騒ぎとなった。

ならこの娘が代わりに行けばいい、口入れ屋がそう言って、みなは安堵し、スエは、姉の弔いもそこそこに、口入れ屋に伴われて隣村の材木屋に向かった。

父は不機嫌に、もう少しまてば、遊郭で高く売れたものを、と悔しがった。娘の一人が急死したことよりも、お世辞にも美しいとは言えないが働き者の次姉を材木問屋に、美しいと評判のスエを遊郭にという計画が崩れたことにいら立つような家だった。




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